米国の企業社会から見た場合、米国の大学に留学してくる外国人留学生は、卒業後、母国に戻り、米国企業の現地法人(日本にあてはめれば、日本国内にある米国企業の支社や日本法人)に就職してくれる人材であると認識されています。したがって、成績が極めて優秀で、米国人の採用をやめてでも採用したいと思わせるような人材でなければ、そう簡単には米国内で雇われることにはなりません。多くの留学生が米国で就職せず、日本など母国に戻ってくるのはそれが理由です。

もし能力が認められて就職が決まれば、大抵の場合、その企業がビザの取得を支援してくれますから、就労ビザが付与されますが、就職先が決まっていない状態では、ビザの取得はかなり難しいと考えてよいでしょう。

上記を整理すると、米国の大学に留学しただけでは、ビザを取得して米国で働くことすら難しく、永住はさらに困難、というのが移民大国米国の実情ということになります。そうなると、大学卒業者に対して自動的にグリーンカードを付与するというトランプ氏の提案は、かなり現実離れしたものと言わざるを得ないでしょう。

トランプ氏「大学卒業で永住権」は実現可能? 移民大国アメリカにおけるグリーンカード取得の“想像を絶する”難易度_img0
米ウィスコンシン州での集会に集まったトランプ氏の支持者たち。写真:AP/アフロ

このトランプ氏の提案は、ハイテク投資家らが司会を務めるネット音声番組内で出てきたものであり、各国から優秀な移民を受け入れたいハイテク業界の意向に沿った内容と思われます。しかしながら、卒業者に対して自動的にグリーンカードを付与することが現実的に困難であることは、当事者たちが一番良く知っているはずですから、トランプ氏の発言をどのように受け止めたのかは何とも言えません。
 

 


トランプ氏は、発言内容がバラバラだったり、以前の発言と整合性が取れないことがよくあります。目の前にいる支持者に対して受けの良い発言をしているという点では一貫性があるのかもしれませんが、そうなると大統領になった時に、どのような政策を繰り出してくるのか、まったく予想がつきません。

とりあえずトランプ氏の発言は話半分に聞いておいた方がよいでしょうし、仮にトランプ氏が大統領に就任した場合には、相当な混乱が生じることについて覚悟しておく必要がありそうです。
 

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