本作は妊娠、中絶、出産がテーマとなっているだけに、男女の不均衡だけでなく、家族や親子の関係性のあり方、宿った命の重みなど、さまざまな要素が散りばめられています。望まない妊娠をしたかもしれないと焦っていた間戸ですが、「母と子」はとても神聖なもので、絶対にセットで幸せじゃなきゃダメだと思っていた、と語る場面があります。

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「私が1回目の離婚をする時、とある友達が、『父親と母親は嫌い合っていても、子どものために絶対に離婚すべきじゃない!』と、家まで止めに来たことがありました。自分じゃない誰かにわざわざこんなことを言うなんてすごくエネルギーのいることだけど、その人にとってはすごく大事な信念だから、危機感を感じたのだと思います。

その時、親子関係や子どものことを、いわば神聖視している人がいることに純粋に驚きました。今は、神聖だと思いたい人がいるならいてもいいけど、そうじゃないと思う人がいるのもわかってほしいという気持ちでいます。世の中には、いろんな意見を持っている人がいるわけで、どれが正解かというものじゃない。私が作品にいろんな人や考えを描く時、その答えを持たないようにしています。ちょっといやらしいかもしれないけど」
 

 


間戸の数少ない友達の一人に、高級マンションで一人暮らしをしている佐津川和歌という40代前半の女性がいます。悠々自適そうで、どんな仕事をしているかわからない謎多き彼女ですが、やがて、過去に離婚歴があり、一人息子は夫と義母のもとで暮らしているということが明らかになります。

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「私が息子と一緒に暮らしていないのと同じように、離婚など、いろんな事情があって子どもと離れている親は意外と多いもの。お父さんの方が子どもと一緒にいないケースが多いけど、その逆もあります。でも、お母さんが子どもを育てていない方が、罪悪感を持ちやすい状況にあると思うんです。私自身、そんな感情がなくはありません。

母と子は一緒にいるべきという世の中の考え方はあるけど、子どもをどちらが育てるかというのはその時の配偶者との力関係や、さまざまな要因で決まるもの。この作品でもいろんなパターンの人を登場させることで、どれが正しいということではなく、それぞれの立場や考え方を描きたい。佐津川さんもその一人なんです」

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本作では、彼女をはじめとした登場人物のそれぞれがいろんなものを抱え、それを悔やんだり、引きずったり、なんとか自分で折り合いをつけようとしている姿が描かれています。当人にとっては深刻な問題でも、鳥飼さんの漫画というフィルターを通すと滑稽に見えてしまう場面が多々あります。

「理不尽なことをされている本人は、自分が悪いに違いないと責めてしまい、他に逃げ場がない状態に陥って自家中毒になってしまって、本当に苦しいんです。私も同じような経験があるのですが、『あなたは今、すごく閉じてるよ! もっと外の世界があるよ!』ということは、外からしか言えないし、実はその状況が滑稽だということも外からじゃないと見えてこない。だから、閉じている状態の自分やそのバカバカしさをコメディタッチの漫画にすることで、少しでも風穴を開けられたら、という思いはあります」