それぞれの登場人物がさまざまな問題を抱えており、重いエピソードも少なくはありませんが、思わず笑ってしまう要素が満載で、怒涛のストーリー展開は、鳥飼さんならでは。本人が「楽しんで描いている」と言うだけあって、登場人物たちの会話の応酬や、「え、そう来る?」という驚きの連続で、あっという間に1巻を読み終えてしまい、続きが気になるはず。
「今、この作品を楽しんで描いているんですけど、実はこれまであんまり漫画というプラットフォームが好きじゃなかったんです。漫画を選んだのは消去法で、絵を描くことが好きで美大に行ったけど、絵で食べていける才能はない。会社で働ける気もしない。でもお金は稼がなきゃいけない。漫画という分野は経済が確立されているから、多少なりともお金になれば、と思って漫画を描き始めたんです。
自分は漫画やアニメにハマったことはないし、漫画的な表現で苦手なものもあって、漫画を描き続けているものの、愛憎半ばみたいなところがあって……。それに、漫画でも現実で起こることしか描いちゃだめで、時系列も過去から未来に向かって描くべき、みたいに自分に厳しくすることで、漫画と一線画そうというところがありました。
でも、2年ぶりに漫画を描き始めて、自分が決めたルールがバカバカしく思えてきたんです。キャラクターをオーバーアクションにしてみたり、時系列の巻き戻しや早送りもあり! なんて感じで自由に描いてみたら楽しくて! 今までやらなかったことをたくさんやってみたいという気持ちでいます」
また、今まではアナログで描いていた鳥飼さんが、本作からフルデジタルの作画に挑戦しています。
「アナログだと、下書きも含めてものすごくたくさんの紙を使っているんですね。これ以上地球を汚すべきではないと思って……。あと、アシスタントさんがリモートで作業できるのも理由の一つです。アナログと同じようなタッチが表現できるようにデジタルのペン先を作ってくれた人がいて、その人のおかげで以前と同じようなタッチが表現できているのはありがたいです。デジタルに移行して、アシスタントさんにものすごい迷惑をかけていたことに気づきました。でも、アナログにはアナログの良さがあって、描いても手元に残らないという若干の寂しさはありますね」
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