2017.11.21

手紙の愉しみ

45歳の時、仕事を休筆してバーレーン赴任の家人にともない日本を離れるとき、当時の版元だった新潮社の担当編集者の皆さんから送別の品として贈られた和紙の文箱。軽く、愛らしく、しかも度重なる国際引越しにびくともせずに16年。今は日本の仕事場が定位置ですが、でも、便りをしたためたい時と場所は様々で、そのつどその場所へ箱を持って移動。するとそこが文机に。気に入った葉書やカードと、手紙用の万年筆などをしまい、疲れたときに開けてひとり眺めるのも好きです。

この5年、携帯をスマホに替えてからというもの、めっきり手紙を書かなくなってしまいました。

メールはガラケーの時となんら変わっていないのに、仕事のほとんどをスマホで済ませ、移動式書斎のような気分になっていたからかもしれません。

用事ばかりでなく、季節の便りやお礼状までスマホでメールする癖がついてしまいました。

そんなわたしがハッとさせられたのは、京都の友人知人たちから送られてくる手書きの便りでした。

その素敵さと言ったらありません。

早すぎも遅すぎもしない、3日後に確実に届く1枚の葉書。オリジナルの絵や吟味されたカードにしたためられているのは、凡庸な時候の挨拶ではなく、心を尽くした季節の一言です。

文面も長すぎず短すぎず、読みやすい長さで、それが流麗な縦書きの細筆で描かれている様に、常にバタバタのわたしの暮らしにも平安の風がひと筋、吹き渡るかのようです。

ああ、幼い頃からそのように教えられてきたのだろうなあ、とため息が。とても一朝一夕に真似できるものではありません。

ほかにも、周りには素敵なお便りをくださる方が多く、やはり手書きの便りは嬉しいもの。もっと気軽に書くことができたら、と思うのです。

  • 鳩居堂の季節の葉書を若い頃から愛用しています。ペン先の馴染む書きやすい紙質と美しい絵柄。文が短くても済むし、長く書くこともできる絶妙なレイアウトが素敵です。店では、各葉書にその季節の月が示されているので、わかりやすい。着物の柄と同じように、少しだけ季節を先取りした絵柄を使うのも楽しいものです。
  • 本誌の大草編集長にいただいた京都は唐長の葉書セット。手漉き和紙に版木で伝統の図柄が描き出されています。見ているだけでも優雅な気分に。美しい桐箱入りです。
  • アートピースと言ってもいいほど美しく、質の高い和紙に刷られたかみ添のカード。白に銀でレースの図柄が浮き上がるこれは、昂KYOTOとコラボレーションされたもの。

借りたものをお返しするときや、ちょっとしたものを送るときは、封筒に便箋でひと言したためたい…と思っていても、つい何も添えずに送ってしまい、メールでごめんなさい、と。そんな無粋な癖を直さねばですね。

メールでなんでも済ませられるようになってから、便利になったか、時短になったか、と考えてみると、決してそんなことはないように感じます。

かえって煩雑になったり、1日中メールに向かっているときもあり、身体にも精神にもあまりよくありません。

やり取りが多くなる今からの季節、手書きを楽しみ、相手の顔を思い浮かべる時間をできるだけ取りたいものです。

  • 鳩居堂の、これもロングセラーの便箋と封筒のセット。季節ごとに揃えたくなる美しさ。
  • ちょっと一言でも、封筒がついているところがいい鳩居堂のそえぶみ箋。来年の干支の犬と、パンダを選んでみました。
  • 平安時代の貴族は、紙にも香を焚きしめたといわれています。紙が高価なものであり、恋の始まりでもあった時代、それは贅沢な嗜好品だったのでしょう。その名残を感じさせる文香。封筒を開けたとき、かすかに立ち昇る香りが優雅な気分に。香りが好きなひとかどうか、わかっている場合のみに使います。
文箱とは別に、切手はこんなクッキーの空き缶にコレクションしています。素敵な便りをくださる方は、たいてい切手も素敵です。便箋やカードの絵柄に合わせた切手や、便りの内容に合わせたものが貼られて届くと、ハッとし、日々の中での美のやり取りに心慰められます。送られてきた素敵な切手は、切り取って保存することも。