光野桃「美の眼、日々の眼」

2017.5.2

立夏―夏を迎えに

窓辺の鉢にイングリッシュラベンダーを植え替えました。部屋の中に漂ってくるフレッシュなラベンダーの香りが、季節が変わったことを知らせてくれます。

夏の始まりを告げる二十四節気、立夏。
この日から立秋の前日までを、暦の上では夏と言います。

今年の立夏は5月5日、ちょうど端午の節句の日に当たります。

この日について調べてみると、びっくりすることがわかりました。

古代中国では、この季節を要注意、危険シーズンと考え、5月を「毒月」と呼んでいたというのです。なかでも5月5日は最重要危険日!

唐代の説話集「酉陽雑俎(ゆうようざっそ)」には「5月は人が抜け殻になるので、屋根に上がったりしてはいけない、魂を取られる」などと書かれています。

もちろんこれは旧暦の話ですから、今の暦でいうと5月末から6月にかけてのことなのですが、初夏の爽やかさよりも、湿度が高くなり、物が腐りやすく、急な暑さに病気にかかりやすく、精神的にも不安定になりやすい、ということを重要視していたのだとわかります。

日本の場合は新年度からひと月が経ち、新しい環境に慣れてくると同時に、疲れも出てくる頃。

暑さに慣れない身体が、強いエアコンの冷気に晒され、身体の外も内も湿気がこもって、辛い時期だと言えます。

ここをうまく乗り切らないと夏バテする、とわたしも毎年痛感しています。年齢を重ねるごとに夏がきつく感じられるからです。

心掛けていることは、まずハーブの力を多用するということ。そして冬以上に「冷え」に気を配ることです。

柏餅の柏葉はブナ科コナラ属の落葉中高木ですが、フラボノイドやカテキン、オイゲノールなどの化学成分を含み、抗菌、防腐効果があるそうです。

ちなみに、柏餅に柏の葉を使うようになったのは、わりと最近のことで、その前はサルトリイバラという木の葉を使う地域が多かったとか。

イバラ餅、がらたて、といった名前で呼ばれてきたこの餅菓子は、野山で比較的手に入りやすく、強い解毒効果はじめ薬効のあるサルトリイバラ(山帰来)の葉に包まれて、守られてきたのでしょう。

また、菖蒲湯にする菖蒲も鎮痛や血行促進など、そして一緒にお風呂に入れたいヨモギには保湿効果のある成分が含まれています。

そもそも、菖蒲やヨモギは束ねて軒下や玄関に挿し、災厄除けにしたもの。古代から、薬効のある植物がこの時期に用いられていたのは、人びとの智恵なのですね。

立夏を境にして、呼び方が「木の芽」から変わる「山椒」も爽やかなハーブです。わたしはこの時期にしかいただけない花山椒と鳥の鍋が大好きです。

そして、初夏の少し苦味のある野菜をたっぷり使ったサラダ。若い頃、雑誌で担当していたフラワーアーチスト、高橋永順さんが教えてくださった絹ごし豆腐のサラダは、この時期に必ず作ります。

大きな皿に絹ごし豆腐を四角いまま置き、その上に、ウド、クレソン、ニラ、大葉、わかめなどをザクザク切って載せ、ゴマをすべてが隠れるくらいたくさん振りかけ、酢と醤油、ごま油、そして韓国の辛過ぎない甘やかな風味のある唐辛子も加えてざっくりと混ぜ、各自で豆腐を崩しながらいただきます。

初めて味わった時の、清涼な風が身体の中を吹き抜けるような印象は、30年経ったいまでも変わりません。

さらに、梅。疲れたときは、マクロビオティック食品の店で扱っている梅醤で梅醤番茶を作って飲んだり、旅行には強い解毒効果のある梅肉エキスを携帯するのもおすすめです。

冷たいものを飲みすぎないことはもとより、身体を冷やす果物の果糖と白砂糖を控え、甘いものは発酵ドリンクや甘酒などに切り替えます。足湯も身体の中の湿気を輩出するのに効果があるでしょう。終わったら、指股の水分をよく拭きとります。

夏は五行で火を表します。火は熱。消化機能が落ちると、身体の中の熱がきちんと外に排出されていきません。

消化器官を冷やさず、血流を良くして熱をうまくのがし、身も心も軽い真夏を迎えたいものですね。

京都に行ったら立ち寄らずにはいられない中村軒の柏餅。これは漉し餡ですが、わたしはみそが好き。柏とは「炊し葉」の意で、食べ物を包んで蒸す葉の総称という説もあります。爽やかな葉の香りも味のうち、ですね。ちなみに本文中にあるイバラ餅が買えるのは宮川町の名月堂。柏餅の時期ではない時につくるそう。がらたては滋賀県長浜市の親玉本店の名物餅菓子です。