AIで投資はより安全に、そして簡単に


定常的な運用ということになると、多くの人が頭を悩ませるのが、投資先の選別やポートフォリオの管理である。幸いなことに、これからの時代は、従来では考えられなかったペースでテクノロジーが進歩する可能性が高く、その影響は資産運用の分野にも波及してくる。具体的にはAI(人工知能)を使った自律的な資産運用である。

ここ数年、AIに関する技術が急速に進歩してきたことで資産運用の世界が激変している。海外の大手ヘッジファンドにおいては、トレーディングにAIを活用することはもはや当たり前の光景である。

プロの世界においてAIの導入が進めば、当然、一般投資家向けのサービスにもAIの技術が導入されてくる。最近ではスマホをベースに、ごく簡単な質問に答えるだけで最適なポートフォリオを構築し、実際にそのポートフォリオにしたがって運用を行ってくれるサービスも登場している。

 


例えば独立系のウェルスナビ(WealthNavi)は、ポートフォリオの構築や実際の運用をロボットにお任せできるサービスである。年齢、年収、資産額、投資目的など簡単な質問に答えるだけで自動的にポートフォリオが決定され、あとは資金を振り込むだけで、上場投資信託(ETF)を中心に自動的に資産運用が行われる。

ポートフォリオの見直し(リバランス)も自動化されているので、一旦、資金を振り込んでしまえば、後は完全にほったらかし投資が可能だ。マネックスや楽天証券など既存の証券会社も同様のサービスを提供している。

これらのサービスはAIというほどのものではなく、古典的なポートフォリオ理論にしたがって、売買を自動化するサービスといった方が適切である。だが将来的には、もう少し複雑でリスクを取った運用についてもAIがサポートするようになることは間違いない。

では、金融分野において広範囲にAIが普及した場合、個人の資産運用はどう変わるのだろうか。AIを使った投資は金融理論に従って淡々と売買を繰り返すことになるが、これは、多くの人が陥りがちな、相場急変時のパニック的な動きとは無縁の世界である。おそらくそれだけでも投資成績はかなり向上するだろう。

もちろん多くのサービスがAI投資になれば、各社の運用成績は平均的な市場のリターンに近づいていくので、誰かが大きく儲けるということは難しくなるかもしれない。

株式市場の醍醐味を知る人からすると、少しつまらない世界かもしれないが、逆にこれは多くの人にとって朗報である。生涯労働・生涯運用の時代において、こうした着実な運用方法が生まれつつあることは喜ばしいことではないだろうか。
 

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加谷 珪一/経済評論家
1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「新富裕層の研究-日本経済を変えるあらたな仕組み」(祥伝社新書)、「お金持ちはなぜ、「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「教養として身につけたい戦争と経済の本質」(総合法令出版)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。