そしてもう一つ、自死についてのある視点をお話させていただければと思います。というのも自死遺族の多くは、愛する人を失った悲しみに暮れる一方で、「命を粗末にした人間の家族である」という申し訳なさや後ろめたさも抱いて苦しまれているからです。亡くなった人の話を口にすることもできない人もいます。そこで私と亡くなった夫の体験をお話させていただきますね。

 

私の夫はがんを患っていたのですが、終末期に差し掛かったとき、向かいのマンションで自死された方がいました。そのとき、夫が激しく動揺したのです。「僕はこんなにも生きたいと願っていながら生きられないと苦しんでいるのに、どうして!」と。このような人の思いもあって、自死された方の家族は、自死を選んだことに対して悪いことである、という思いを抱きがちです。家族でなくてもそう思う人もいます。このように、死には実際のところ“差別”があるのです。

 

一方で、死に良いも悪いもない、という視点もあります。私の夫を看取ってくれた主治医は精神科が専門の先生でしたが、動揺する夫にこう言ったんです。「人間は自ら命を断つようにはプログラムされていない」。つまり自死をするというのは、脳が何らかの異常を来したということだ、と。それは心臓の病気を患ったり、がんになったりするのと同じだということを意味していました。「脳も心臓やほかの臓器と同じ、人間の体の一部。だから、自死も脳の病気が引き起こしたこと」。それを聞いて夫は、「そうだね、僕と同じように病気で苦しんだ人なんだね」と言って、すごく落ち着いたのです。そう考えると、死は差別できるものではないと思いませんか?

怒り、悲しみ、悔しさ……。自死を選んだことに対して、ご遺族にはさまざまな感情がわき上がりますし、またどのように感じても良いと思うのですが、それを周りがどうこう言ったり否定したりしてはだめだと思います。たとえそれがご遺族を慮っての言葉だとしても。だからChauchauさんがもし甥御さんのご家族のために何かできることがあるとしたら、死を差別せず、冷静に鬱という疾患について調べ、医学的にも適切な知識や情報を得ることではないかと思います。そして弟さんのご家族が変わっていこうとするときに、少しだけサポートをしてさしあげてください。

Chauchauさんも、甥御さんのご家族も、無理に変わる必要はありません。でも、少しずつでもきっと、何かに気づけるときが増えていくことでしょう。時間は、思っている以上に優しいというのが私の実感です。

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 取材・文/山本奈緒子

 

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