また脳の神経と神経はシナプスというもので繫がれているが、シナプスの数は5歳前後をピークに減少に転じる。これまでよく使われていたシナプスの経路はそのまま残り、使用されなかったシナプスの経路が消滅していくことが確かめられているのだ。これは、木の枝の剪定に似ていることから、神経繊維の剪定と呼ばれており、5歳から10歳前後の小学校低学年〜中学年の時に進む。つまり学童期の脳の変化は、まずは10歳に向かって進行していくのだ。

 

集団行動の向上、落ち着きの向上、身辺自立の完成、言語コミュニケーションの向上、ルールの理解……。学童期の脳にはそうした準備ができる。そして、家族との交流が中心であった状況から、次第に家庭外の友人との交流が活発になっていく。子供が子供同士で動き始めるわけである。こうした発達によって、学校教育がスタートできる。
しかし、もしこれが未熟な状況であれば、学校教育のような集団行動には支障が生じてしまう。
 

通常クラスでダメなら支援クラスに、という考えの弊害

日本の学校制度が発達障害の子を苦しめる【児童精神医学の権威が今伝えたいこと】_img0
 

しかし昨今は、授業中、席に座っていられない子が増えている、という話を多く聞くようになった。
原因の一つは、発達の凸凹を持つ子が昔よりもはるかに多いということがある。しかし今の学校制度においては、子供たちは学力に合わせて適切なクラス選択ができない。多くの親は、子供を通常クラスに入れたがるからだ。だが、自分が理解も参加もできない授業に45分じっと座っている子供側の苦痛を想像してほしい。実は不登校の原因も、対人関係のことより、学力と教育のミスマッチが一番多いのである。

日本の公立小学校には、通常クラスと支援クラスがある。親は、通常クラスでダメだった時に「支援クラスに」と言うし、教師もそのように勧める。私はこの流れが良くないと考えている。
なぜなら、本来支援クラスからスタートすべき子供が通常クラスから始め、そこで上手くいかなければ、強い挫折を体験することになるからだ。努力しても成果が挙がらないという体験を繰り返すと、子供たちは頑張ろうという意欲をのものを失ってしまう。
さらに親から「勉強しなければ支援クラスに行くことになるよ」という言い方をされているうちに、ハンディキャップを持った子供は、ハンディキャップを持つことに対して偏見を抱くようになる。その結果、発達に凸凹を抱えて学習に困難さを抱えている本人自身が、「支援クラスに行くくらいなら死ぬ」とか「支援クラスのバカが俺と同じだと言うのか?」などと口にするようになるのだ。

日本の学校制度が発達障害の子を苦しめる【児童精神医学の権威が今伝えたいこと】_img1
 

『子育てで一番大切なこと』
杉山登志郎著 講談社現代新書 ¥840


発達障害の子どもたち』『発達障害のいま』などの著書を持つ児童精神科医の杉山登志郎医師が、発達障害や不登校、虐待にはあまり関心のない普通の読者が読めるようにと書いた子育て本。編集者との対話形式で綴られているので、専門的な内容も非常に分かりやすい。子育ての基本を、妊娠時期から乳幼児期、小学生時期と、時期別に分析。また見逃されがちな発達障害、そして子育てにおける課題などについても解説している。

文/山本奈緒子
構成/山崎恵

 

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・第6回『日本にビル・ゲイツは育たない。発達障害の権威が指摘する“全体主義教育”の罪』は9月11日(水)公開予定

 
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