「演劇」を活用し、さまざまなコミュニケーションで教育活動を行ってきた劇作家で演出家の平田オリザさん。大学入試改革にも携わっている平田さんは、演劇を学ぶ初の国公立大として、2021年度に開校する予定の国際観光芸術専門職大学(仮称)の学長就任も決まっています。連載「22世紀を見る君たちへ」では、これまで平田さんが「教育」について考え、まとめたものをこれから約一年にわたってお届けします。

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日本ではまだ認知度が低い「演劇教育」とは

 

この連載では、2020年に行われる大学入試改革の本質や問題点、そして将来像をまず紹介してきた。そして、その中で私の専門である演劇教育やコミュニケーション教育が、どのような役割を果たせるかも考察してきた。

しかし残念ながら、諸外国に比べて、日本ではまだ、演劇教育への認知度は圧倒的に低いと言わざるを得ない。

コミュニケーション教育までは、いまはどこに行っても、まず皆さん、その重要さを理解はしてくださる。ところが、そこで「演劇」を持ち出すと、「え、どうして演劇なんですか?」「それは、本当に効果があるのですか?」という顔をされる。いやいや、ほとんどの先進国は国立大学に演劇学部があり、高校の選択必修にも演劇があるのですよといった話をしても、「ほー」と感心されるだけで納得はしてもらえない。

だが、ここに来て、福音とも呼べるデータが出てきた。お茶の水女子大学の浜野隆教授の研究チームが発表した「平成29年度全国学力・学習状況調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」である。

この調査は、全国学力テストの際に行われる学習状況調査の追加調査として、保護者に対する調査を実施、分析し、家庭状況と学力の相関性を分析している。小中学生の保護者それぞれ七万人前後を対象とした大規模調査だ(これから記す内容は、すでに公表されている資料と、私が直接、浜野先生から伺って補足した内容を含んでいる)。
まず、二つの重要な用語を整理しておく。
 

 

子どもの学力と密接に結びつく「SES」とは


・「SES」(家庭の社会経済的背景=Socio-Economic Status)……ここでは、「家庭所得」「父親学歴」「母親学歴」の三変数による合成指標を用いている。
・「非認知スキル」……IQや学力テストで計れる「認知できる能力」に対して、測定が難しいが知識や思考力を獲得するために必要だと思われる能力全般を指す。具体的には、集中力、忍耐心、やり遂げる力、協調性などなど、とにかく広範囲にわたる。

OECD(※編集部注:経済協力開発機構)ではこれを、三つに分類している。

一、目標を達成する力(忍耐力、意欲、自己制御、自己効力感)
二、他者と協働する力(社会的スキル、協調性、共感性、信頼)
三、情動を制御する力(自尊心、自信、問題行動のリスクの低さ)

では、調査結果を見ていこう。
まず、SESの高い家庭の子供ほど、学力テストの正答率が高い。これは、もはや常識となっており、前回、平成25年度の同様の調査と変わらない。今回、さらに明らかになったのは、まず以下の点だった。

・小六、中三とも、SESが高いほど正答率の学力のばらつきが小さく、SESが低くなるほどばらつきが大きい。
・小六の方が、中三よりもばらつきが大きい。

要するに、SESの低い層(困難な家庭環境)でも一定数、高学力者が存在する。それは小六の方が大きな塊としてあり、中三になるとSESの格差と学力格差の相関性が強くなってしまう。
おそらくSESの高い層は、塾に行かせるなどしているので、中三になると、ばらつきが小さくなるのだと考えられる。

 
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