沙村広明さんという漫画家を知っていますか? 2017年に木村拓哉さん主演で映画化された「無限の住人」という時代劇の原作者として知られていますが、不思議な箸を持ち、人から廃棄家電まで食べ尽くす謎の少女が主人公の「ハルシオン・ランチ」や、“売春島”と称される孤島で繰り広げられるバイオレンス・アクション「ベアゲルター」など、熱狂的なファンが多い漫画家です。現在、アフタヌーンで連載中の「波よ聞いてくれ」は現代の札幌が舞台。沙村作品では“今度こそ間違いなく人の死なない漫画”ではありますが、言葉で人を突き刺し、斬りまくる、痛快な物語です。4月3日からアニメ放送も始まり、さらなる盛り上がりを見せています。

漫画好きの間では、数年前から根強い人気を誇る「波よ聞いてくれ」。現在、アフタヌーンで連載中。いよいよ4月3日からアニメ放送が始まりました。

 

物語の主人公は釧路出身、札幌在住の鼓田ミナレ(26)。スープカレーの店「ボイジャー」のフロアチーフとして働き、福岡出身の光雄と別れた直後で少々荒れ気味です。ここまではよくある話。ある晩、飲み屋でたまたま隣の席にいた、ナイスミドルなロン毛口ひげのおじさんを相手に、酒の勢いも手伝って愚痴りまくり。気付いたら自宅のベッドで、記憶が全くない。ここまでも、まぁまぁある話でしょう。

 

すっかり酔いも覚めて涙も枯れ、気分をリセットして店に行くと、度重なる遅刻を店長に責められてしまうミナレ。なんとか気を取り直したところでランチタイムが始まります。店内に地元ローカルFM局MRS藻岩山ラジオの番組が流れる中、ミナレはそつなく接客をこなしていました。しかし、突然聞こえてきたのは、なぜか昨晩の飲み屋での愚痴トーク。ランチで多忙な時間帯にも関わらず、ミナレは衝動的に店を飛び出し、車を飛ばしてラジオ局に向かいます。ここまでくればよくある話どころか、絶対にない話!

 

ミナレがオンエア中のスタジオに駆け込むと、そこには昨晩、愚痴を吐き出したおじさまの姿が。しかも、ミナレが来るのを予測していたかのような余裕ぶり。今すぐ放送を止めさせようとするミナレに対して、「止めるからにゃアンタが間を持たせるんだぜ?」と挑発し、ド素人のミナレに生放送で喋らせます。

 

バイトがクビになりかけの崖っぷち女であるミナレは、とにかくキレッキレのトークが持ち味(本人は自覚しているわけではないと思うけど)。言葉のチョイス、テンポのよさ、たぶん根拠のない自信、無鉄砲さ、勢いのままに生きる姿勢などなど、そのすべてが魅力的でかっこいいのです。ロン毛口ひげおじさんこと藻岩山ラジオ局ディレクターの麻藤兼嗣も、そんな彼女に可能性を見出したのか、単に面白いことをやりたいだけなのかわからないところはありますが、ミナレをラジオの世界に引っ張り込み、ラジオDJとして喋らせようとします。実際、オンエアを止めに来たはずなのに、麻藤の無茶振りで1分間マイクに向かったミナレは腹が座っていて強烈なインパクトを与えていました。

 

アクが強いキャラの面々、かわいい女の子(沙村作品に出てくる女性はみんなかわいくて美人でかっこいい!)、地方のラジオ局の深夜番組、素性のわからない謎の人たちがないまぜになって、どこに向いて走っていくのかわからないストーリー展開がやみつきになります。また、ミナレを始めとした登場人物のセリフの応酬(漫画なのにかなり文字多め)、わかる人にはわかる小ネタが散りばめられ、ひとコマひとコマを隅々まで読みたくなります。また、ラジオ局の制作現場を通して、ラジオというメディアの魅力も伝わってきます。漫画なのに脳内では音が流れ込んでくるようで、まるで「読むラジオ」。

アニメでは、キャラクターたちが実際にしゃべるところも見られるわけで、いまこそが、この漫画を読むベストタイミング! 個人的には長らく楽しみにしていた『ベアゲルター』(小社刊)の5巻が4月9日に発売されるのもうれしいです。こちらはヘビーな描写もありますが、「波よ聞いてくれ」を気に入った人にはぜひ読んでほしい作品です。

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『波よ聞いてくれ(1)』

著者 沙村広明 講談社

鼓田(こだ)ミナレ、20代独身。札幌在住、スープカレー屋勤務。 ひょんなことからギョーカイ人の中年男性にダマされ、ワケも分からずラジオDJデビュー。カレー界とラジオ界の覇道を歩むべく奮闘はしないが、真の愛と幸せと享楽を求めてオンナは戦い続ける、に違いない。 さあさあさあ、波よ聞いてくれ!!!