“異世界転生もの”というジャンルを知っていますか? ある世界に生きる人が死後に別の世界(異世界)で生まれ変わり、新たな人生を歩むというものです。古くからあるジャンルなのですが、ここ数年、ライトノベルや漫画を中心に爆発的に増えており、正直なところ食傷気味ではあります。

コミックDAYSで2019年12月末に始まった「パリピ孔明」も、ジャンルとしては“異世界転生もの”で、「またか……」と思いきや、これがまた意表をついた設定と、説得力のある展開に笑いや感動もあり、ということでSNSを中心に話題を集めています。「これは名作の予感しかしない!」というわけで、大人も読み応えありの異色の“異世界転生もの”をご紹介します。

歴史にあまり詳しくない人でも、諸葛亮孔明という名前に聞き覚えはあると思います。時は漢の時代の後期、「魏」「呉」「蜀」という三つの国に分裂する戦乱の世において、のちに蜀の初代皇帝となる劉備玄徳に仕え、活躍した軍師の一人です。圧倒的な知力と策略でさまざまな困難を乗り越え、人格者としても優れていたと言われています。中国の歴史書「三国志」にも登場し、21世紀になっても多くの歴史ファンを惹きつけています。

 

「パリピ孔明」は、西暦234年、中国・五丈原の戦いの最中、諸葛亮孔明が病によって命が尽きようとするところから始まります。

 

次の瞬間、なぜか孔明はハロウィーンで盛り上がる渋谷のど真ん中にいました。仮装姿で歩き回る若者の姿を見て、「ここは地獄だ」と察した孔明。若者は若者で、孔明を「孔明のコスプレをした人」という認識しかなく、一緒に酒を飲んでクラブへと繰り出します。

 

フロア中に鳴り響く音楽に、「これも地獄の刑…?」と戸惑う孔明の目の前に現れたのは、EIKOという駆け出しのシンガー。盛り上がれれば何でもいいという若者が大半な中、孔明の心にEIKOの歌声が響き渡り、強い感銘を受けるのです。「歌が揚子江の濁流が如く流れこんできます……」ってどんな感覚だかよくわからないけど、地獄に堕ちたと思い込んでいる孔明にとって、故郷を彷彿とさせる安らぎを垣間見たことはしっかり伝わってきます。

 

ハロウィーンで夜通し盛り上がった渋谷にも朝が訪れ、酔いつぶれて路上で寝ていた孔明をEIKOが見つけます。クラブで歌を褒めてくれた孔明を放置しておけず、家に連れ帰ったEIKO。孔明はEIKOの部屋で鏡を見て、自分が若かりし頃の姿に戻り、蘇ったことを悟ります。

 

三国志時代と何もかも違う、現代の日本に一瞬は戸惑いを見せる孔明ですが、そこは天才軍師。持ち前の頭脳で状況を把握し、自分のことをWikipediaで検索できるほどにスマートフォンを使いこなせるまでになります。しかし、EIKOにいくら説明しても、なかなか信じてもらえません(そりゃいきなり、「私は諸葛亮孔明です」と言われて信じられるはずがない!)。

 
 

孔明は使いこなせるようになったWikipediaで、西暦263年に自分が生涯をかけて忠義を尽くした蜀漢が滅亡したことを知ります(Wikiで知るなんて切なすぎる……)。平和のために戦った仲間たちに思いを馳せ、悲しみにくれる孔明を、EIKOは歌で励まします。その歌に改めて感銘を受けた孔明は改めて平和の尊さを感じ、どういう理由かは分からないものの、知力と体力に満ちた若い頃に戻ることができたことを生かして、EIKOの歌を通して争いのない平和な世界を実現することを胸に誓うのです。でも、何をするにも、まずはお金が必要。

 

こんなにギャグ要素満載の第1話なのに、深すぎる! 第2話からはいよいよ孔明がクラブシーンについて猛烈な勢いで学びつつ、EIKOのプロデュースをすべく策略をめぐらせていきます。

ここからは「三国志」でも有名なエピソードが巧みに盛り込まれていくのですが、「三国志」のことをよく知らなくても大丈夫! EIKOが所属するクラブのオーナーが三国志好きで、いいタイミングで解説してくれます(このオーナーもまたいいキャラをしている)。また、クラブやミュージックシーンに明るくなくても、孔明と一緒に学んでいくことができます。

またたく間に現代に馴染んでしまうのは、孔明からすれば造作もないこと。だってもともと天才軍師だから! 孔明がどのような策略を繰り広げてEIKOの軍師となって活躍するかは、ぜひ第2話以降を読んで確かめてもらいたいのですが、孔明のずば抜けた頭脳だけでなく、高潔な人格者ぶりや三国志時代にはなし得なかった平和への思いなどが、渋谷のクラブシーンにうまく盛り込まれていて、もはやこの「パリピ孔明」自体が、巧みな策略に感じられるほどです。また、EIKOの本名が月見英子で、孔明の妻・黄月英にひっかけているところも心憎い演出! 

 

数多ある“異世界転生もの”とは一線を画し、渋谷のクラブと諸葛亮孔明という異色の組み合わせも単なるネタではなく、むしろ必然性すら感じられます。4月8日には待望の単行本1巻も発売されるので、一気読みして毎週火曜更新の「コミックDAYS」の連載も追っかけてください(いや、きっと追っかけずにはいられない!)。
 

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『パリピ孔明(1)』

原作 四葉タト、漫画・漫画原作 小川亮 講談社

五丈原の戦いで死期を迎えた名軍師・諸葛亮孔明は、若い肉体に戻り、現代日本へと転生した! 渋谷のパリピ達に誘われ、たどり着いたのはダンスミュージックが鳴り響くチャラめなクラブ。そこでシンガーを目指す月見英子と出逢い、孔明の二度目の人生が幕を開けた! 三国志時代、天下泰平のために生きた彼は、なんの為に生きるのか--!!