劇団「青年団」を率いる劇作家、演出家にして、演劇を活用した教育活動の普及にも励まれている平田オリザさん。2018年9月から一年にわたった雑誌『本』での連載が、『22世紀を見る君たちへ これからを生きるための「練習問題」』として一冊の本にまとめられました。。これを読むと、教育は子を持つ親だけの問題ではない、ということを思い知らされます。インタビュー後編では、平田さんがお住まいの兵庫県豊岡市での施策などを例に、その解決策を語っていただきました。
インタビュー前編はこちら>>コロナ禍で浮かび上がった「東京一極集中」問題の深刻さ
平田オリザ 1962年、東京生まれ。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」結成。戯曲と演出を担当。現在、四国学院大学社会学部教授、兵庫県豊岡市に2021年開学予定の国際観光芸術専門職大学(仮称・構想中)学長候補者。2002年度から採用された国語教科書に掲載されている平田のワークショップ方法論により、多くの子どもたちが、教室で演劇を創る体験をしている。戯曲の代表作に『東京ノート』(岸田國士戯曲賞受賞)、『その河をこえて、五月』(朝日舞台芸術賞グランプリ受賞)、『日本文学盛衰史』(鶴屋南北戯曲賞受賞)、著書に『わかりあえないことから―コミュニケーション能力とは何か』『下り坂をそろそろと下る』(以上、講談社現代新書)など多数。
上の人間が覚悟すれば、豊かな教育環境は作れる
教育の混迷や貧困、格差といったすべての問題は「東京への一極集中と連動している」と言い切る平田さん。地域格差というあまりに壮大な話ゆえに個人が簡単に対処できることではないかもしれませんが、それでも、私たちがやれることはなにかないのでしょうか。
「個人個人がやれることは、もう非常に限られていますね。難しい方が多くいらっしゃることは承知の上で、できるなら地方へ移住すること。とにかく人口を分散させることが重要です。これは、リスクの分散にもなるんですよ。私が住んでいる兵庫県豊岡市ではそれが出来ています」
豊岡市では演劇教育の実施のみならず、身体的文化資本や非認知スキルといった面での教育格差をできるだけ生まないための施策を講じています。
「今年の3月にうちの劇団、青年団の小劇場である江原河畔劇場がプレオープンしました。さらに豊岡市は素晴らしい映画館もあります。こちらは経営難だったところを地元の不動産屋さんが買い取って運営していて、夏休みにはディズニーの最新作も上映するし、また映画配給会社のアップリンクと組んで、都心でしか観られないようなミニシアター系の作品もかけています。豊岡市では、文化施設は、一人親世帯については親も子供も無料です。首長と教育長が覚悟を決めれば、身体的文化資本、非認知スキルを育てる環境はどこにでも作ることができるんです」
参考記事:
読書に次ぎ、子どもの教育格差を生む「ある経験」とは?>>
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昔ながらの“斜めの関係”が育むもの
非認知スキルを育むのに重要な、住民同士の結びつきも強いそう。
「我が家の場合は、すぐお隣が造り酒屋さんだったお宅なんです。そこは小学校二年生、保育園の年長さん、年少さんと、お孫さんが3人いらっしゃる。うちの子は2歳で保育園に通っているのですが、登園前にお孫さんたちがうちに迎えに来る。迎えに来るといっても保育園に行くわけではなくて、15分ほどそのお宅で遊んでくれるんですよ。ものすごく広い庭があって一緒に走り回ったり、年少の子とおもちゃを取り合ったりする。おもちゃを取ったり、取られたり、分け合ったりすることは、非認知スキルを育むうえで非常にいい。また、上の子たちもよく面倒を見てくれます。
で、その15分というのは、彼らのお母さんが年長と年少の子たちを保育園に連れていく支度をしている時間なんですね。お母さんに代わっておじいちゃんおばあちゃんがお孫さんたちを見ていて、そこへうちの子も混ぜてもらっている。だから、おじいちゃん、おばあちゃんとも触れ合える。東京では、たとえ祖父母が近所に住んでいても可愛がるだけですからね。
こういう触れ合いは“斜めの関係”と言われていますが、昔は近所付き合いも多かったし、家族も大家族でおじさん、おばさん、おじいちゃん、おばあちゃんも一緒に住んでいたから、斜めの関係も自ずとそこにあった。さらには、普段なにをしているのかよくわからない次男坊なんかもいて、生活はだらしないんだけど、思春期に入った子供の相談役になってくれていたりね。そういうところから、人の役割を学んだりできたわけです」
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