マッキンゼー、ネスレ、ほぼ日など数々の一流企業でキャリアを積んできた篠田真貴子さん。2018年11月にほぼ日を退社し、1年3カ月の「ジョブレス」期間を経て、現在は株式会社Yell(エール)の取締役。篠田さんは2児の母でもあります。キャリアと家庭で多忙を極めながらも、能動的で活き活きとした人生を送っている篠田さん。二回目の今日は、大変だった時期をどう乗り切っていたのか、キャリアと子育てを両立する方法についてうかがいました。

乳幼児の育児は苦手、でもいい。キャリアと子育てへの対処法【篠田真貴子】_img0
 

篠田真貴子
1968年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。取締役CFOに。2018年に退任し、「ジョブレス」を経て、2020年3月からベンチャー企業、YeLL(エール)株式会社の取締役に就任。監訳書に『ALLIANCE アライアンス —— 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』。Twitter:@hoshina_shinoda

 

 

どちらかを選択しなければならない環境に疑問


——前回、上機嫌に生きるために篠田さんが心がけていることについてうかがいました。今回は、キャリアと育児を両立させる上で苦労された点や、その乗り越え方について教えてください。

「以前から、性別に関する価値観にはモヤモヤしていました。たとえば、結婚に限らず、恋愛の場面でも、仕事ができる男の人はモテるのに、仕事ができる女の人はモテづらいと思いませんか? 男性は仕事できる=モテるだし、立派な仕事をする=結婚のチャンスが広がる。でも、女性は逆なわけです。

なので、『女性として幸せに生きたいから仕事をセーブする』という方の気持ちもすごくわかるんです。だって、モテたいじゃないですか(笑)」
 

——モテたい!(笑) 実は、私自身がそういう風に感じて、キャリアを諦めていました。今となってはそのことに後悔で……。

「本来は、どちらかになってしまうのはおかしいはずなんです。子を持つことに関しても同様です。保守的な価値観の職場だと、男性は『大黒柱なんだから、もっと頑張って仕事しないとね』といったように声をかけられる。

一方で、女性は『仕事続けるの?』というクエスチョンから始まるんですよ。女性がどんなに仕事が楽しい! と思っていたとしても、いちいち水を差されることを乗り越えなくてはならない。そうした立場と、応援されて追い風が吹く立場とではどちらがのびのびと仕事や家庭生活を楽しめるかは自明です。

ここ最近、制度自体は以前よりも徐々に整いつつあり、それは喜ばしいことだと思います。ですが、制度が変わっても、自身を含めた人の価値観が変わらなければなかなか乗り越えられない課題だとも思っています」
 

大変な時期を乗り越えて得られたもの


——篠田さんのお子さんが小さかった頃は、制度や社会的な意識は今よりもさらに逆風だったかと思うのですが、実際にはどう乗り切っていたのでしょうか?

「一人目を出産した際は外資系製薬会社のノバルティス ファーマで働いていたのですが、上司が、お子さんが二人いる女性だったんですね。自分一人だけではなく、身近にそうした方がいたのはラッキーでした。

また、妊娠が判明した際に、マッキンゼーで働いていた頃の友人に告げたら、いろいろなコツを伝授してくれたことも大きかったです。『職場と家と保育園は30分以内で移動できる場所にあるのが理想だよ』と言われ、産休に入ったその週に引っ越しました。

妹の存在も支えになりました。彼女は働いてはいませんでしたが、子育てに関しては先輩です。困ったときには色々聞いたり愚痴をこぼしたり、良き理解者でいてくれてすごく助かりました。

子育ては簡単なことではありません。大きな苦労を伴います。ですが、そうした苦労を乗り越えることによって、得られるものも確実にある。実際に、私は子育てを経たことにより、人への許容度が上がりました。

仕事で理不尽なことがあったとしても、『言葉が通じるだけで全然OK』と思えるようになりました。逆に、赤ちゃんに対して、泣く前に『今ちょっといいかな』と言ってくれないかな、なんて思ったり(笑)」
 

——たしかに、言ってくれるだけで助かる! と思えますね(笑)。お子さんが大きくなった今は、負担は減りましたか?

「そうですね。わが子達はもう中学生と高校生なので、彼らが家にいるときにはお昼ご飯は各自で用意してもらっています。息子は、ニンニクとパスタどっちが多いんだ? というくらいのニンニクもりもりパスタなんかをつくっていますね(笑)。

娘は家庭科の教科書を見ながら、ハンバーグや回鍋肉をつくったり。1回目は自信がないから『ママ、見てて』と言われて横で監督してるんですが、2回目からは自分でできるようになります。

隣で見ていると、『5分間煮る』といった時間で、好きな動画を見始めたりするので、『動画見ずに、その間に使ったお鍋洗う!』と口を出したりしています(笑)」
 

「機嫌とは意志である」。イライラしないための3つのコツ【篠田真貴子】>>

 
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