男と女の間にはどうしても埋められない深〜い溝がある、なんて話もありますが、相手がどんな立場に置かれていて、どう感じているかは、本人になってみないとわからないこともあります。マンガアプリ・Palcy(パルシィ)で連載中の『朝起きたら妻になって妊娠していた俺のレポート』は、一風変わった妊婦体験マンガ。かわいいタッチの絵柄に、コメディ要素たっぷりの作品ですが、半ば強制的に相手の立場に成り代わり、「いっぺん我が身の言動を考えてみろ!」と突きつけられるシビアな一面もある作品です。

物語の主人公は、「ちょっと気がつく男だし、優しい方だと思う」と自分を評する営業職の三浦優一(30)。友人の紹介で知り合った、漫画アシスタントをしている華(31)と結婚して子どもが生まれたばかり。ところが、出産直後に華から「一緒に子育ては絶対無理」と突然離婚を突きつけられてしまいます。

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優一にとっては青天の霹靂でしたが、この直後に頭を打って意識を失い、目覚めたら妊娠初期の頃の妻になっていました。「俺」は華になっているのに、目の前には「俺(夫の優一)」がいる、という不思議な状況に陥ってしまったのです。

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華になった「俺」は、元「俺」なだけあって、はじめは優一に対して「優しい」と好意的にとらえます。離婚を切り出した華に対しては、「世間知らずで甘いところがあるけど、目が覚めたら広い心で許してやるか」なんて考えています。この時点で、既に優一がかなり勘違い野郎である匂いがぷんぷん漂ってきます。

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ところが、つわりが始まって状況が一変。ひたすら吐きまくり、一日中横になるしかない華(俺)に対して、優一は「一日中寝ていただけ!? すっげーいいじゃん!」と言い放ち、夕飯はカップ麺でいいよと、あくまで自分本位。無理に夕飯を作らせずに「カップ麺でいいよ」というのが彼なりの優しさのようですが、華(俺)から見たら、理解の範疇を超えています。

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優一の勘違いな優しさはまだまだ続きます。妊娠のお祝いに、とレストランを予約していたのですが、つわりがひどい華(俺)からすれば、到底そんな気分にはなれません。それでも、キャンセル料がかかったらもったいないと華(俺)の体調はお構いなし。華(俺)はやむなく一緒にレストランに行くのですが、やはり肉どころではなく、料理にほとんど手を付けることができません。さらには、妊娠のお祝いなのに全然料理を食べられない華(俺)のことを思いやることもなく、能天気に華(俺)の分まで肉を食べる優一に怒りを覚えずにはいられません。

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そんなイライラも相まってか、急に吐き気を催し、粗相してしまった華(俺)。それを見た優一が、「妊娠はビョーキじゃないんだから、体調管理は自己責任だぞ!」と悪気なく言います。この悪気なく、というのが曲者で、華(俺)の怒りが頂点に達するのも無理はありません。

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このエピソードだけでも、妊娠中に優一から言われた言葉や行動に殺意を覚えるほどの怒りが積もりに積もり、出産直後に「一緒に子育ては絶対無理」と言い切った華の気持ちが痛いほど伝わってきます。

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今後、自分は優しくて思いやりがあると根本的に勘違いしている優一が、妊婦の華にどれほど無神経な言動を重ねていくかが見どころとなるわけですが、華になった「俺」は果たして優一の認識を一から叩き直し、最終的に離婚を回避させることができるのでしょうか?(その前に、俺が元に戻れるのか? というのもありますが) 華と一緒にイライラしつつも、ついつい続きが気になってしまう作品です。

 

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『朝起きたら妻になって妊娠していた俺のレポート』(1)

車谷 晴子 (著) 講談社

「あなたと子育てなんて絶対ムリ」と、突然嫁に離婚を突きつけられた俺、三浦優一。次に目覚めると、なんと妊娠中の嫁の中身が俺に!? 『妊娠は病気じゃない』『俺の飯は?』『母性足りないんじゃない?』次々と突きつけられる「俺」からの言葉に、いかに自分が無神経だったかを思い知る俺…。果たして俺は、こんな「俺」と出産までたどり着けるのか? 夫婦のあり方を考える、新感覚マタニティ・ライフ!