「夏休みや年末年始にはそろそろ海外旅行をしたい」という声もちらほら聞きますが、現実的に行ける可能性はあるのでしょうか。またコロナが終息する前に海外旅行をするリスクはどれくらいあるのでしょうか。医師の回答とは?

【医師が回答】コロナでお盆の実家帰省を迷い中。高齢者への感染で気をつける点とは?>>

 


いつから海外旅行をしてもいいのか。新型コロナウイルスの治療をされてる医師の回答は?

 

山田悠史/やまだ ゆうじ
米国内科専門医。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国各地の病院の総合診療科で勤務。2015年からは米国ニューヨークのマウントサイナイ大学関連病院の内科で勤務し、米国内科専門医を取得。国内では全国の総合内科医の教育団体JHospitalist Network世話人やニュースメディアNewsPicksの公式コメンテーター(プロピッカー)等として、国外ではカンボジアでAPSARA総合診療医学会の常務理事として活動を行なっている。


最前線で新型コロナウイルス感染者の治療をされており、新型コロナウイルスに関する記事も多数執筆されている山田悠史先生に、海外旅行をしてもいいのかどうか、オンラインでインタビューをさせていただきました。


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コロナが終息していない夏休みや年内に海外旅行をするリスクは?


高橋:新型コロナウイルスの猛威はなかなか収まりませんね。これまでなら夏休みや年末年始など、長期休暇が取れたら海外旅行をしていたのですが、今年はもう無理かも……と諦めています。新型コロナウイルス治療の最前線に立たれている山田先生から見ても、やはり年内の海外旅行は難しいでしょうか?やめておいたほうがいいですよね?

山田先生:まず、医師としてではなく、今の状況で言えることは、国や政府に従順であるのであれば、まだ海外旅行はやめておくという選択をすることになってしまうと思います。外務省は現在、ほとんどの国への渡航自粛を要請していますので現実的にはなかなか海外旅行することは難しい。

高橋:そうですよね。

山田先生:また、“旅行が自分の人生においてどれだけ大事か”にもよると思います。つまり、「生きることは旅行することだ」、「旅行することが自分の命より大事だ」というような価値観をもっていらっしゃるなら、ぜひ旅行をするべきだと思います。

高橋:わ〜!旅行は自分の人生においてとっても重要だけれど、これには「はい、命より大事です!」と答えられません……。

山田先生:国内旅行編のときにもお伝えしたのですが、たとえばコロナがまだ終息していなくても、「もう死にそうな親に会いに実家に帰省したい」という状況であれば、親に会いに行くほうが優先されること。このように、どんな活動にもリスクとベネフィットがあり、その天秤が傾いた方の選択をされると思うんです。

高橋:確かにそうですね!


新型コロナウイルス対応医師本人の場合の海外渡航基準は?


山田先生:今回の新型コロナウイルスのような感染症の場合、どんなに感染率が高まったとしても、それが100%になることはありえません。そのときの状況と向き合って、感染のリスクよりも旅行をするベネフィットの方に天秤が傾けば、旅行をする方がその人にとってよいことだと言えますよね。
実際に私自身も、ニューヨークで働く予定がありますが、日本やニューヨークでの感染者数の状況は関係なく、ビザが降り次第出発します。私の場合は、仕事と生活がかかっていますので。

高橋:なるほど〜。山田先生にとってのリスクとベネフィットの天秤の結果ですね。


新型コロナウイルスは元気な若い人なら重症化することが少ない


山田先生:本人が何をもって“安心”と思うかだと思いますが、そもそも旅行で飛行機に乗るということは、飛行機が墜落するかもしれないというリスクを背負っています。このリスクに安心できない人は、そもそも飛行機に乗りません。飛行機に乗ることで必ずつきまとう死亡リスクに、今回新型コロナウイルスというリスクがひとつ増えただけ。
飛行機に乗って死亡するリスクが仮に0.01%だったとします。それにもう0.05%くらい感染症のリスクが増えたということなのかもしれないーー。そう感じています。

高橋:そうなんですね。

山田先生:これまで意識していなかったかもしれないですが、飛行機の同乗者に結核の感染者や他の感染症にかかっている人が乗っているリスクもあったと思うんです。それを意識していたか、意識していなかったかの違いだと思います。

高橋:そう言われるとそうですね。

山田先生:加えて一般的には、高齢者や基礎疾患をもっている人以外の若い人にとって新型コロナウイルスは、重症化させることが少なく、命を落としてしまうリスクはほとんどないと言える感染症です。多くの人にとっては、そこまで大きなリスクを付与する感染症ではないと思います。

高橋:なるほど。私は新型コロナウイルスに関しては、ニュース程度の知識しかないので、無意識にとにかく怖いものと思ってしまっていました。

山田先生:つまり、安心して旅行できるのかできないかは、自分たちの意識の問題ではないでしょうか。もしくは風評被害を受け止められるかどうか。

高橋:風評被害?

山田先生:「新型コロナウイルスが終息していないのに旅行したのか?」と周りの人に言われることですね。このような風評被害のほうが、安心して旅行に行けるか否かということに大きく影響をするのではないかと個人的には思います。


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コロナのワクチンが開発されたら、安心して旅行できるのか


高橋:では、今後ワクチンが開発されたら海外旅行は今より安心と言えるようになるのでしょうか。

山田先生:そうですね。ワクチンが開発され、ワクチンが接種された後であれば、感染者と接触しても自分が感染してしまうリスクが低減する可能性が高いので、「安心」と考えられるようになると思います。
この考えでいくなら、日本ではすでに新型コロナウイルスに感染した方が2万人程度いますが、この方たちはワクチンを打ったのと同じような状況ですから、今後感染したり周りにうつしたりするリスクは低く、安心して旅行できる人たちと言えるかもしれませんね。こちらは今の時点での仮説ですので、実際にこの考えが正しいかはこれからの研究で明らかになっていくものではありますが。

高橋:なるほど〜。でも、ワクチンさえ接種すれば、または一度感染すれば、絶対に今後は100%大丈夫というものでもないんですよね。

山田先生:はい。インフルエンザワクチンの予防接種をしていてもインフルエンザにかかってしまうこともあるように予防接種は感染の確率を下げるものです。また、どんな感染症でも絶対に再感染しないというものはありません。

高橋:やはり、病気においては「絶対に大丈夫!」ということはないんですね!

山田先生:そうですね。ですが、ワクチンができれば、一定の効果は示すであろうと言われています。すでにサルを使った実験がなされているのですが、たとえば10匹のワクチンを打ったサルと、10匹のワクチンを打っていないサルがいたとして、このサルたちにウイルスを投与してみると、ワクチンを打っていないサルはほとんどウイルスに感染して症状を出すんです。ですが、ワクチンを打っていないサルは感染はするのですが、ウイルスの増殖が抑えられていたり、症状が出なかったりすることが報告されています。人で有効かはまた人で確認する必要がありますが、少なくとも今後を期待させる結果だと思います。