「洋子さん、私のとっておきの夏のドレスを試してみない?あなたに絶対似合うと思うの!」
バカンスの終わりが、淋しさと共に近づいてきて、センチメンタルになっていた私に、友人が楽しい提案をしてくれた。
お洒落な人の素敵なクローゼットを見せてもらう。
厚かましいかしら、と思いながらも、好奇心に負けて二つ返事。
勧められたのは、アイボリーに薄い藍色と少しだけ紫を混ぜた様な、優しくデリケートな色合いの、シフォンの様に柔らかなドレスだった。
背が高く、モデル体型のマダムが着たら、さぞかし素敵だろうに――。
ふんだんに布が使われており、かなりのボリュームが出るシルエット。彼女にはジャストサイズの身丈は、私には明らかにお引きずり状態だろう。
鏡の前でそんなことを考えていると、魔法の様な速さで、私の着こなしを直してくれる。
「ベルトでウエストラインをブラウジングして、丈はこんなもんだよね。このベルト、面白いでしょ。襟は抜いてね。スカート部分の前ボタンは膝位置まで外して、と。
はい、出来上がり!」
アペリティフに皆でパティオに出て、陽が落ちていくのを静かに眺めた。ふと、古い言葉が脳裏をよぎる。黄昏――
街の灯りが一寸も無かった時代、夕暮れ時に辺りはとっぷりと暗く、誰かが訪ねて来ても顔が判らない。
誰そ彼(たれそかれ)、あなたは誰ですか?
私の愛しい人であれば良いのになぁ――。
ああ、日本語ってなんて美しいんだ。
また来てね。また来るよ。
夕暮れ時、マダムの優しいドレスに身を包んだら、彼女にハグをされているかのように、じんわりと心が温まり、なおいっそう切なくなった。
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