今年はコロナ禍で、どのご家庭も子育てに悩まれたことと思います。
どのご家庭もお子さんとの生活をよりよいものにしたいと願うのは同じです。
このような環境の変化を、モンテッソーリ教育を受けた学生たちはチャンスに変えていたといいます。
モンテッソーリ教育といえば、よく話題にのぼるのが、中学2年で将棋のプロ入りをした藤井聡太棋士。幼稚園のころ、藤井さんはモンテッソーリ教育を受けていました。また、グーグル創始者のサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、英国王室のウィリアム王子や長男のジョージ王子などもモンテッソーリ教育を受けています。
そんな風に聞くと、なにか特別な教育方法のような気がしてしまいますが、「モンテッソーリは、どの家庭の子育てにも役立てられる身近なメソッドなのです」というのが田中昌子さん(エンジェルズハウス研究所所長)。長年、モンテッソーリで子育て支援をしてきた田中さんに、お話を伺いました。
まずは、ウェブサイト「子育て相談 モンテッソーリで考えよう!」(講談社絵本通信)に寄せられた実例をご紹介しましょう。
実例① ビジネスを立ち上げ、売上金を全額寄付
これはアメリカ在住の高校生の男の子のケースです。
日本にはまだありませんが、アメリカにはモンテッソーリ中学校があり、自分たちで実際にビジネスを行う授業があります。思春期の自立には、経済的自立が重要と考えられているからです。
この男の子は、中学の授業で行った経験を活かし、自分でビジネスを立ち上げました。そして、ビジネスで得た売上金を、全額、新型コロナウィルスで苦しむ人たちのために寄付したのです。
実例② 大学受験生向けの相談ボランティアを始める
もうひとりは、日本の大学生の女の子のケースです。高校生の頃にひとりで行った接着剤に関する研究が認められ、AO入試で大学に合格。ところが、コロナ禍のために高校の卒業式は縮小され、大学の入学式も行われないうえに学校での授業もなく、つらい状況になっていました。
でも彼女は、学校も塾も閉鎖されてしまった後輩の受験生たちが、受験に不安を抱え、自分よりもっとつらい気持ちを抱えていることを知ったのです。そこで彼女は、友人と一緒に「大学受験生向けの相談受付プロジェクト」を始めました。
そうして、受験生たちが精神的に追い詰められないよう、親や先生にも言えないことを受け止める活動をボランティアで行っているのです。
「平和を生きる人」を育てるために
このふたりのケースのお母様たちは、子どもの姿に感動し、誇りに思うと同時に「モンテッソーリ教育のすばらしさを改めて感じた」といいます。
この子どもたちの中には、モンテッソーリ園に通っていた子もいますが、家庭だけでモンテッソーリ教育を実践してきた子もいます。その結果、自分のことばかりでなく、まわりに目を向けることができる子どもに育ったのです。
モンテッソーリ教育を行うことで、「子どもたちは本来そうあるべき姿」に立ち戻るようになります。それこそが平和な状態なのです。子どもたちが皆そうなることで、世界が平和な状態になり、争いごとが起こりにくくなると考えられています。
モンテッソーリ教育の最終的な目的は、「平和を生きる人」を育てることです。では、そのために何をしたらいいのでしょう。必要なことは2つあります。
1つ目は「大人と子どもの戦いをやめること」です。
大人は圧倒的な強者として子どもを支配し続けています。
抑圧され続けた子どもは、ひとりで何かをしたり、自分の意思で動いたりする経験をすることができません。大人になっても支配されることに慣れてしまい、自分をコントロールできなくなってしまうのです。
大人は抑圧する一方で、競争を奨励して、仲間に勝てばほめそやし、大人に反抗せずにすごしてよい点を取れば評価します。しかし、そうした方法では、相手と協力したり愛し合ったりすることが難しいばかりか、いつも心に争いごとの種を抱え、平和とは程遠い生き方しかできません。
2つ目は、「強者である大人は、弱者である子どもと戦ったり子どもを抑圧したりするのではなく、生命そのものが育っていくことを見守り、助けていく」ことです。
植物を育てるときには、適量の水と日光が必要です。やりすぎても少なすぎても枯れてしまいますね。それと同じように、子どもの中にある自己教育力を信じ、適切な援助をすることで、「平和を生きる人」を育てることができるのです。
毎日の子育てで、まずはこの2つを意識してみてください。お子さんがまわりのことにも自然に目を向けることができる「平和を生きる人」に育つのを見守るのは、親にとっても素晴らしい体験になることでしょう。
『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役たつQ&A 68』
モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長
田中昌子:著
「なんでうちの子はこうなの。」「子育てがうまくいかない。」――。
幸せな子育てをしたいと思っているのに、なぜかイライラしたり叱りつけてしまったり。まわりに相談できる人も少ないなか、悩みを抱え込んでしまっている方が多いと感じています。
そんな保護者を応援しようと、田中昌子先生が始めたのが、日本初のモンテッソーリIT勉強会「てんしのおうち」です。
自宅でモンテッソーリ教育の理論を学びながら、子育て相談もできる画期的なシステムで、勉強会で学んだ方からは、「子育ての指針ができた。」「ブレなくなった。」という声がたくさん届いています。
この本では、「子育て相談 モンテッソーリで考えよう」に寄せられた質問に加え、モンテッソーリIT勉強会「てんしのおうち」に寄せられた1万5000通もの子育ての悩みの中から、どのご家庭にも役立つ68の質問を選び、お答えしています。
身近な悩みを通して、モンテッソーリ教育の考え方を知れば、今度はご自身で悩みを解決できるようになります。さあ、今日から、幸せな子育てをはじめてください!
田中昌子(たなか・まさこ)
モンテッソーリ子育て支援、エンジェルズハウス研究所所長。国際モンテッソーリ協会(AMI)公認モンテッソーリ教師。上智大学文学部卒。日本初のインターネットを利用したモンテッソーリIT勉強会「てんしのおうち」主宰。各地のモンテッソーリ園で保護者向けの講演会を行うほか、カルチャーセンターの講師をつとめる。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、『マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育』(日本能率協会マネジメントセンター)。共著に『お母さんの工夫 モンテッソーリ教育を手掛かりとして』(相良敦子共著、文藝春秋)。監修に『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)がある。
構成/高木香織
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