私が金継ぎを自分ごととして捉えるようになったのは6、7年ほど前のこと。
とても大切に使っていたアスティエの大皿をかなり雑に扱ったことが原因で割ってしまった主人が、呆然とする私の感情が怒りに変わる寸前に、”金継ぎすれば大丈夫!しかも世界でひとつだけのものに生まれ変わるし最高でしょ!”と言って切り抜けたあの事件。
ファーストインパクトとしてはあまり良い思い出とは言えませんが、数ヶ月後、割れたお皿がゴールドの模様を施されてアート顔に生まれ変わったのは確か。綺麗な顔をした我が家の他のお皿たちとは違う、美しく歳を重ねた女性のような深みを携え特別なオーラを放っていました。
 

 


もちろん割らない方が良いに決まっているけれど、割ったら“おしまい”とただ悲しい記憶とするのでも、そして無かったことにするわけでもなく、ひとつのストーリーとして受け入れ、敢えて傷を残して魅せる、という日本文化は実に素敵。“どんなに高価でも傷や劣化を恐れて飾ったり仕舞い込んだりするのは本末転倒。モノは使って愉しむもの”という母からの教えもあり、食器だけでなくどんなモノもなるべく日常に落とし込んで使うようにしている私にとって、このことが“万が一があっても大丈夫だからもっと気軽に使っていいのよ”と背中を押してくれるひとつの出来事となったことは間違いありません。

 

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、その後も順調に、そしてなぜかアスティエばかり割った主人(苦笑)。 毎回H.P.DECOにお願いし常連化していたようですが、やがて “いつか自分でも継げるようになりたいな”なんて思うようになり、調べ始めてからずっと気になっていたのが堀道広さんでした。

金継ぎはここ最近流行にもなっているようなので教室を探すのはそう難しくはないと思いますが、有機系接着剤など近代的なものを使って気軽に行う方法を教えている場所も少なくないのが事実。継いだ後も飾るだけでなくお皿として普段使いしたい私にとっては、食品を乗せても安心感のある天然の漆を使った、伝統的な方法で教えてくださることが最大のポイントでした。

堀さんは元々漆塗り職人をされていたこともあり、いわば漆の扱いのプロ。そんなプロが私たち素人でも伝統技法での金継ぎには欠かせない漆をできるだけ安全に、最短回数で、あまりお金がかからないよう工夫して教えてくださるのが”金継ぎ部 ”。長年恋焦がれていたこの教室を今回のミモレのために特別に開いていただきました!

向かったのは5箇所ある金継ぎ部の中でも都心に最も近い場所、西麻布喫茶R。金継ぎに必要な道具は教室でご用意いただけるということで、金継ぎをしたい器とエプロン、という身軽さで伺うことに。

到着した途端、新聞紙の上に並べられた味わいのある道具たちに大興奮。堀さんは元職人さんだから厳しい方なのかしら……と勝手なイメージを抱いていたものの、出されている金継ぎ本のタイトルにぴったりの、とてもおおからな方で、とてもリラックスしながら教えていただくことができました。

講師の堀道広さんが丁寧に工程を説明しながら進めてくれるので安心。
 
 

通常は5回の工程に分けて行うのですが、私が体験させていただいたのはそのうちの2工程分。繊細な作業ではあるものの、失敗したと思ってもやり直しがきかない、というものがないので私のようなあまり器用でない人でも全く問題なし。初めて漆というものに触れ、次はどんなことをするんだろうとワクワクしながら説明を聞いて進めていく時間は、小学校の頃の図工の時間を思い出すようで、すっかりのめり込んでしまいました。

接着し、元に戻すことで、いったん壊れた器がまた生まれ変わる。
まずは装飾と補強のため接着部に黒漆を塗っていく。
漆で欠片を接着した器。はみ出した部分は削っていく。

自分のモノは自分で直しながら使っていくという丁寧な暮らしは私の憧れのひとつ。今回は私の自宅には欠けたお皿がなかったのですが、次に何かあった時には自分で!と思いつつ、”いや、何もありませんように!” と複雑な想いを巡らせながら帰途に着きました。
 

【白澤さんが体験した本金継ぎの工程はこちら】
▼右にスワイプしてください▼

①用意するもの。チューブの漆や蒔絵筆、真鍮の粉、へらなど。
②③陶器の割れ目に電動やすりをかけて、スムーズにする。やすりをかけることで漆がよく染み込み丈夫な仕上がりに。
④漆の原液を綿棒に少しとり、割れ目にまんべんなく染み込ませていく。その後2時間ほど電気釜で乾燥させる。
⑤強力粉に水を混ぜて作った糊と、漆をよく混ぜ合わせる。
⑥10cmくらい糸をひくようになったらOK。これが麦漆となる。
⑦麦漆を竹ベラで割れ目に塗っていく。
⑧⑨割れた破片同士をマスキングテープで止めながら、接着していく。
⑩全体を接着させたら、その後1週間ほどむろで乾燥させる。
⑪接着部からはみ出た麦漆をやすりで削って取り除く。
⑫まずは装飾と補強の意味で接着部に黒い漆を塗る。
⑬⑭⑮乾かしては塗り、という作業を3回繰り返す。器を補強する役割としては、こちらの漆の塗装段階で終了してもOKだそう。
⑯⑰乾いた後に、金粉を塗って完成。
⑱こちらが通常使用する真鍮の粉。最初はお手軽な真鍮や銀がオススメだそう。
⑲右が銀粉、左が銀粉。

 

今回お世話になった金継ぎ教室

 

堀道広さん 石川県立輪島漆芸技術研修所を卒業後、文化財修復会社を経て、漆職人として働きながら2003年漫画家デビュー。以降、漆と漫画の分野で活動。著書に「青春うるはし! うるし部」(青林工藝舎)、「おおらか金継ぎ」(実業之日本社)など。都内近郊で金継ぎのワークショップ「金継ぎ部」主催。おおらか金継ぎの普及に努める。公式ホームページはこちら

 

堀さんが初心者からできる「金継ぎ」の方法を紹介した本書では、本物の漆を用いた「もっとも」伝統的なやり方を紹介。楽しく、わかりやすく、伝統的な金継ぎの方法がわかる一冊。『おうちでできるおおらか金継ぎ』(実業之日本社)。

【教室情報】
堀さんが教える「金継ぎ部」は都内5箇所で開催。今回白澤さんは、西麻布にある素敵な喫茶店「西麻布R」で開催される回に参加させていただきました。
「西麻布金継ぎ部」:毎月第2・第4水曜日。19時~21時。見学無料。新入部員募集中。1回5000円(材料費込み、お茶、お菓子付き)※金粉については時価により別途かかります。全部で4〜5回の受講で完成する工程です。
※金継ぎしたい器、エプロン(もしくは作業着)の他に、ゴム手袋とカッター、ウエスなどの汚れても良い布をお持ちください。問い合わせは西麻布R公式ホームページへ。

撮影/片岡祥