動脈硬化や認知症にも関わるとされる「口」の健康。むし歯や歯周病になってからの“治療”よりも、いかに“予防”するかが重要とされています。しかし、日本の歯科診療では予防のための口腔ケアは保険適用外とされてきました。
「世界の潮流に反して予防を蔑ろにした結果、日本の高齢者の歯はひどい状況になってしまいました。少し前までは、半数近くの人が60代で半分以上の歯を失っていたのです」と語るのは、『歯のメンテナンス大全』の著書であるサウラデンタルクリニック院長の堀滋先生。そこで今回は、長生きしたいなら知っておくべき“大人の口腔事情”について、むし歯・歯周病予防について最新の知識を網羅する『歯のメンテナンス大全』から、特別に一部抜粋してご紹介します!

歯の残存本数が少ない日本人。中高年こそ矯正した方がいい理由_img0

歯を失うもっとも多い要因は歯周病


歯周病は、歯と歯ぐきの間にあるすき間(歯周ポケット)から細菌が歯肉に入り込み、歯周組織が炎症を起こした状態です。炎症がひどくなると、歯を支えている歯槽骨が溶け、歯が抜けてしまいます。

 

痛みや腫れなどの自覚症状がほとんどないこと、動脈硬化や認知症など深刻な病気との関連があることから、「サイレント・キラー(静かな殺し屋)」などと呼ばれます。

歯周病の治療の基本は「自宅でのプラーク(細菌)コントロールの強化」と歯科医院で受けるクリーニングです。このどちらが欠けても治療は成功しません。

歯周病は歯の根元から進行……歯周病のセルフチェックリストで確認を!
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毎日の歯磨き、食生活の改善、良質な睡眠、ストレス対策など自宅でプラークケアを行ない、口の中をよい状態に保ちながら、定期的に歯科医院でクリーニングを受けて、炎症を軽減させていきます。

いかに炎症を軽減できるかが、治療の成功を左右するカギになります。歯科医や歯科衛生士の技術だけでなく、ご自身の自宅でのケアがとても重要になります。

口の状態は健康長寿に直結する


口の中のことを医学用語では「口腔」といいます。歯の状態や歯周病が注目されがちですが、口腔は歯で食物を味わいながら噛み砕いて(咀嚼)、だ液と混ぜ合わせて飲み込む(嚥下)という「食べる機能」や、言葉を発して「会話する」ための重要な役割を担っています。また、きれいな歯並びは見た目にも影響しますし、表情をつくることにも関係しています。

歯が1本抜けてもたいしたことないと放置する人がいますが、1本の歯がなくなるだけで噛み合わせが狂い、口腔状態は徐々に悪化していきます。また、歯周病は自覚症状がほとんどないまま慢性炎症をもたらし、じわじわと全身を蝕んでいきます。口や歯は全身に関わる重要な器官です。

むし歯や歯周病で歯をなくすと、食事がおいしく食べられなくなりますし、滑舌が悪くなってコミュニケーションがうまくとれなくなってしまいます。第一印象も左右しますから、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ=QOL)に大きく影響します。