いろんなことを配慮した上で、ちゃんと面白いエンタメをつくる


――他者を傷つけない配慮は、これからのエンタメにおいて非常に重要なことだと思う一方で、そうした配慮や規制がテレビをつまらなくしたという意見も一定数あります。こうした声と対話を重ねていくとしたら、吉田さんはどんな言葉から始めますか。

吉田 まず生きているだけで、普通に喋っているだけで、誰かを傷つけたり苦しめたりする可能性があるんだと認識している人かそうでない人かで前提が大きく変わってくると思います。正直に言うと、少し前まではわからない人には何を伝えても通じないから、わかる人にだけ伝えていこうという考えがありました。でもそれじゃ世界は変わらないんですよね。

私はこれからも配慮はしますし、自分の嫌なものは描きません。それでつまらないと言われたら私の負け。私にできることは、配慮や規制がテレビをつまらなくしたと言う人たちが、何も気づかず、ハハハと笑って楽しめるものをつくること。そして、そうやって楽しく観ながら、どこかで「あれ?」と気づいてもらえたらいいのかなと。

差別に対して無意識だったり、人を傷つけるような表現を平気で受け入れてしまえる人に、いきなり配慮してと言っても息苦しいだろうとは思います。人って怒られたり否定されるのは嫌いだから、強い言葉で言っても余計に頑なになるだけ。これからもダメなことはダメだと言っていきますが、北風と太陽じゃないですけど、いろんなことを配慮した面白いエンタメをつくって、それを通じて知らず知らずのうちに少しずつ考えていってもらうのが私の戦い方なのかなと思います。

それがいいのかもちょっとわからないですけどね。多少なりとも名前を出して仕事をしている私がちゃんと声をあげる方がいいのかもしれないと思うときもあります。でも、今の私はそうじゃなくて、作品で納得させるしかないかなと。来年はどう考えているかわからないですけど。

©豊田悠/SQUARE ENIX・「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会

――僕も考えていきたいです。やっぱりどうしても面白さを優先して、他人を傷つけているかもしれない表現に走ることが多々あって。そこには、清潔な文章にまとめることで、本来そこにあった面白さが損なわれてしまうことへの抵抗がどこかにあるんだと思います。

 

吉田 私もそうですよ。私の場合、食べることが好きで、料理もするから、つい料理上手なヒロインを描きがちというのがあって。でもそれって料理ができなきゃダメなの?という刷り込みを植えつけかねない。私にそんな意図はなくても、そうした描写が生み出す差別もあるなと。

――料理が得意な人が魅力的に描かれることで、それを理想とする人も増えてくるのはあるでしょうね。

吉田 だから、いろんな人を描かなきゃなと思います。次にオリジナルをやるなら、ご飯がつくれないヒロインにしようかなとか。運動があんまりできない分、運動ができる人に憧れがあって、ついカッコよく描きそうになってしまうんですけど、別に1番手の男性が100mめっちゃ遅くてもいいじゃんっていう(笑)。そうした多様性はもっともっと大事にしていかなきゃいけないところですね。

私も決して完璧な人間ではないです。今はむしろ自分の感性がいつの間にか古くなったり、自分が無意識な差別をしていないか気になりはじめているぐらいで。できる限りちゃんと世の中の変化に目を向けながら、自分が信じているフラットな世界をこれからも描いていきたいです。

 

受け入れなくてもいいから、否定はしない

――急速な価値観の変化を肌で感じつつ、変わらなきゃという気持ちと変えたくない気持ちの間で揺れ惑っている人が今の世の中にはたくさんいます。そんな人に、吉田さんが声をかけるとしたら何と伝えたいですか。

吉田 そのまんまでいいんじゃないかと思います。変わるのって本当に難しいし、ストレスなんですよ。無理に変わろうとしたって変わらないですから、人は。ただ、社会には変えなきゃいけないものが絶対にある。だから、あなたは変わらなくてもいいから、周りを受け入れてほしいなと思います。

『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』をやったとき、メインの脚本家は鈴木智尋さんで。私より10歳年上なんですけど、ジェンダーにしてもルッキズムにしても、鈴木さんは自分にはわからないことが多い、でも大事なことだからやってほしいという姿勢の方でした。私はそんな鈴木さんがとても素敵だなと思ったんです。

自分にはわからないことも、まずは受け入れてみる。受け入れるのが難しかったら、せめて否定はしない。簡単に「やだ」とか「気持ち悪い」と言いがちですが、その言葉の矛先が向かうのが自分の大切な人だったらと思うと、絶対にひどい言葉なんて出てこないですよね。

そもそも自分が思っている普通は決して普通ではないかもしれない。だから、簡単に否定をしないでほしい。受け入れなくてもいいから、否定はしないで、と伝えたいですね。

<作品紹介>
木ドラ25「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」

童貞のまま30歳を迎えた安達(赤楚衛二)は、「触れた人の心が読める」魔法を手に入れる。ひょんなことから営業部エースの同期・黒沢(町田啓太)の心を読んでしまうと、心の中は自分への好意でいっぱいで……。爽やかイケメンから拗らせ童貞への、一途な恋の行方は?! 最終回は12月24日(木)深夜1時30分放送(一部地域を除く)。

番組公式HP:https://www.tv-tokyo.co.jp/cherimaho/ 
公式Twitter:@tx_cherimaho

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取材・文/横川良明
構成/山崎 恵

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