被収容者たちは劣悪な環境に甘んじているばかりではありません。ガマンの限界に達した女性たちは改善を求めて立ち上がりました。しかし……

 

入管は非暴力で挑んだ彼女たちの抗議行動を力でねじ伏せてしまいます。その上で、行動を起こした女性たちをさらに追い詰めていきました。

 

「『最も劣悪』と呼ばれる部屋に、女性たちはそれぞれ閉じ込められた。広さは3畳ほどで、部屋の備品などは何もなく、監視カメラがぶら下がっている。
トイレは床に穴が開いているだけで、自分では流すことができない。職員にお願いして、流してもらわないといけないようになっているので。『前にいた人の排泄物が残っていて、臭くて汚くて、窓もなくて、とても耐えられなかった』という。そして、彼女たちは『もう逆らわないから出してください』と、職員に屈服させられた」

鬼のような職員たちの行動に怒りを禁じえませんが、とはいえ彼らだって血の通った人間。時には弱さを露呈することもあるようです。

 

実は職員たちも入管といういびつなシステムの被害者でした。織田さんはそんな彼らの心の声にも耳を傾けます。

「私も当初は職員が大嫌いで、敵意をむき出しにすることもしばしばありました。もちろん、迷いのようなものも常にありました。しかし、だんだんと職員と話をしていくようになっていきました。彼らも、自分たちの話を聞いてもらいたいという気持ちがあるのかもしれません」

そんな織田さんたちの地道な活動が功を奏し、最近では入管の対応や職員の意識も改善されてきたようです。

 

意地悪な職員がいる一方で、被収容者に感謝されている職員もいる。その状況を見た織田さんは、問題の本質をこう指摘します。

「長いつき合いの中でだいたいわかってきたのは、ほとんどの職員は目の前の仕事をこなしているだけで、入管制度についてはよくわかっていないということです。『仕事だから』と使命感をもって働く人もいれば、『どこか間違っているのではないか……?』と疑問を抱きながら日々過ごしている人もいるようです。結局のところは、制度そのものを変えていかないとならないのです」

2004年から根気強く支援活動を続けてきた織田さんを突き動かすのは善意だけではありません。広い観点で見れば、日本人だって国際社会の一員。明日は我が身を唱える織田さんの言葉に耳を傾けつつ、グローバル化が進む世の中で私たちが取るべき行動を考えてみませんか?

「『もし自分が同じような立場になったら?』と少しでも想像してみてください。私たち日本人だって、いつどうなるのかわかりません。自身が日本に住めなくなって、難民として世界に出て行く場合もあるかもしれません。急に不景気になって、海外に出稼ぎに行く場合もあるかもしれません。
そんなことはまったくありえないという保証はどこにもないし、すでにそうしている人もいると聞きます。そんな時に、やはり誰かの助けが必要となり、その手を振り払われたらとても悲しいことだと思います。『日本人は今まで外国人に冷たくしてきたから嫌だ』と、拒否されたくはありません。助け合いの心を持っていれば、いずれ自分が困ったときに必ず返ってくるはずです。苦しんでいる人をサポートすることは、必ず自分に良い形として返ってきます」

 

『ある日の入管~外国人収容施設は“生き地獄"~』
著者:織田朝日 扶桑社 1300円(税別)

日本人の出入国管理だけでなく、外国人の在留許可の管理や難民認定手続きなども担当する「出入国在留管理庁」(入管)。ビザが切れて(または更新が認められずに)オーバーステイになったり、難民申請が認められなかったりといった外国人を収容する同機関の収容所で横行する非人道的な処遇をリポートするコミックエッセイ。被収容者だけでなく職員の心にも寄り添う著者の情熱的でありながらも冷静な筆致に心を突き動かされること必至です。


構成/さくま健太

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