「私たちは何度も生き返る。小さく小さく、くりかえし生まれ変わる」
日々の生活でどうしようもなくしんどい時や泣きたくなる時、ご飯を食べるという行為で、自分の一部が蘇ったような気持ちになった人は多いのではないでしょうか。おかざき真里さんの『かしましめし』は、人生につまずいた人たちが寄り添い、美味しいご飯を共に食べて救われ、また次の日を生き抜いていける、元気を取り戻していく日々を描いた漫画です。
主人公は3人。憧れの仕事をワケあって退職した千春、バリキャリだけど社内恋愛に破れ婚約破棄されたナカムラ、恋人とうまくいっていないゲイの英治。いずれも28歳で、同じ美大を卒業した同級生。別々の生活をする彼らが、一つの家に集まり、ご飯を一緒に食べるところからはじまります。
第一話冒頭、「みじん切りがしたい……」と、今日あった「何か」をかき消すように自宅のキッチンで野菜を勢いよく刻みはじめる千春。
すると、英治とナカムラから連絡が。この日は3人で包まない餃子をホットプレートで焼きながら食べることに。
先に着いた英治と千春が一杯やっているうちに、会社帰りのナカムラが到着。千春いわく、ナカムラと英治はいつも言い合っていて、仲が良いのか悪いのかよくわからない関係。
そして包まない餃子を焼きはじめ、すぐに食べる! 食べるシーンの臨場感が本作の見せ場です。
これは「包まない餃子」を食べている千春。
彼らは実に美味しそうに「かしましく」音を立てて食べます。ハフハフ、パリパリッ、ホクッホクッ⋯⋯ 『かしましめし』というタイトルの所以は、「女が3人集まると姦しい」だけでなく、食べることに没頭する3人のこの多彩な食事音にもあるのかも? と思うくらい。
そして毎回、レシピつきで登場する料理がとても美味しそうで、読んでいるとお腹がすいてきちゃいます。こちらは「いろいろホイル焼き」。開けてみるまで中身がわからないのでエンタメ性もある料理です。
さて、どうしてこの3人は共に食事をするのか……。
実は、彼らが美大卒業後に再会した場所は、同級生の葬儀でした。そして、故人との意外な関係性がそこで判明し、だんだんと頻繁に会うようになったある日、千春が2人を家飲みに誘ったことから、3人の食卓がはじまりました。
そして、彼らはそれぞれ「解決しない問題」を抱えています。心を病んで憧れの仕事を辞めてから時が止まってしまったかのような千春、社内恋愛に破れ婚約破棄されて職場で腫れ物をさわるように扱われているナカムラ、同居しているゲイの恋人が家にあまり帰ってこなくなった英治。
3人の食卓は、にぎやかで楽しく美味しくおもしろいのですが、その裏には「同級生の死」や「解決しない現実問題」があるのです。
せめてごはんは美味しく
生きる運動だけは楽しく
でないと きっとーー
この3人は食べる行為に救われて、次の日を生き延びる元気を得ています。
けれど、どんなに熱々のご飯でも、時間が経てば冷めてしまうし、食べれば無くなってしまうように、食べる行為による救いは「いまだけ」で瞬間的でもあります。
3人の関係も「いまだけ」で長く続かないことが、途中のモノローグから少しずつわかってきます。
音楽も 美味しいご飯も やさしい時間も
わけ合わないとすぐ消えてしまう
そのために僕らは一緒にメシを食う
彼らの未来がどうなるのか、最新刊の4巻時点ではまだわからないのですが、楽しく食べることもやさしい人間関係も、ずっと続くようで実は「いまだけ」で、はかないもの。だからこそ、その瞬間を大切にしたい。この先の展開をあれこれ予想してせつなくなりつつも、そんなメッセージが伝わる作品です。
【漫画】『かしましめし』第1話を試し読み!
▼横にスワイプしてください▼
『かしましめし』
著者:おかざき真里
祥伝社
「私たちは何度も生き返る。小さく小さく、くりかえし生まれ変わる」憧れの仕事をワケあって退職した千春、バリキャリだけど社内恋愛に破れ婚約破棄されたナカムラ、恋人とうまくいっていないゲイの英治。人生につまずいた28歳の3人がご飯を食べて救われる。『サプリ』『&(アンド)』のおかざき真里の最新作。簡単レシピも盛りだくさん。
構成/大槻由実子
作者プロフィール:
おかざき真里
博報堂在職中の1994年に『ぶ〜け』でデビューする。 2000年に博報堂を退社後に、広告代理店を舞台にした『サプリ』はドラマ化もされ、大ヒット。 代表作として『渋谷区円山町』、『&(アンド)』などがある。