高校を舞台にしたマンガというと、キラキラした青春ものや甘酸っぱい恋愛など、某スポーツ飲料のように、ブルーがイメージカラーで爽やかな風が吹いているような作品が多いものですが、和山やまさんの『女の園の星』はちょっと違います。こちら「このマンガがすごい!2021」のオンナ編で第1位に輝き、2巻が5月8日に発売され、じわじわと注目されている作品なんです。

舞台は女子校、主人公はその国語教師・星先生(表紙の人)。ただ、典型的な青春ストーリーや、ドラマチックな展開は一巻を通して起きることがなく、星先生と周りの先生や生徒たちとのささいな日常を描いているだけ。

なのですが、表情や仕草がとにかく細かく描かれていて、こんな人ってどこかにいるんじゃないかな……という親近感とともに、あれ、何かがおかしいぞ?というシュールさにやみつきになるのです。

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女の園の星』(1)和山やま 著

第1話では、星先生がある日、担当するクラスの学級日誌で「絵しりとり」が繰り広げられてることに気づきます。

 

本来は、日直係にクラスの様子を書いてもらうための備考欄に、誰かが絵を描いたことから自然発生した「絵しりとり」。そこに描かれたナゾの絵について考えをめぐらせる描写が細かくて、想定外。

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「ほ」からはじまり、「い」で終わるものは……と考え込む星先生。
©️和山やま/祥伝社フィールコミックス


「生徒のお遊び」と思いつつも、だんだん気になってきて学級日誌を取る手がふるえてしまったり、「国語の教師をやっていながら言葉が全然出てこない…」職員室で一人、ナゾの絵に心をとらわれている様子が何ページにもわたって描かれているのがくだらなく、シュールな可笑しみがあります。

星先生は、基本的に喜怒哀楽が乏しくテンション低めの性格。生徒から「ウケんだけど」と言われても反応が薄い……。

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©️和山やま/祥伝社フィールコミックス


そして、生徒から「無印良品」とあだ名をつけられるくらいの無機質・シンプル感。そう、学園ものの作品では脇役になりそうなキャラが主役に据えられているのが『女の園の星』なのです。

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夏でもいつもスタンドカラーの白シャツを着ている星先生。
©️和山やま/祥伝社フィールコミックス


第3話で、同僚の小林先生に大学時代のことを話すシーンでそれははっきりと感じられます。「漫画を読むのが好きだったので、ゆるい交流が望めるかと思い」入った漫画研究会では、周囲がどんどんカップルになっていく中、「壁の花」と化していたという星先生。

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黒歴史を語る時には、思わず顔に影がさしてしまう。
©️和山やま/祥伝社フィールコミックス


どちらかというと、話し相手の小林先生の方が明るくて主役キャラっぽいんです。そんな二人は職員室では隣同士の席でよく雑談をしているけれど、たまにしか飲みに行かないという絶妙な仲。

飲みに行くと、最初は「お休みの時は何をされているんですか?」と無表情で聞いていたのに、お酒が進むとだんだん喜怒哀楽が豊かになってきて、しまいに謝りはじめる星先生を小林先生は「この星先生好きなんだよなあ」と眺めています。

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目尻にホクロがあり、いつもポロシャツを着ている小林先生。
©️和山やま/祥伝社フィールコミックス


このシーンが象徴的で。ゴツゴツ骨張った感じの手でタバコを吸っていたり、弓形の眉毛に目尻のホクロ、少しだけ垂れている前髪など、小林先生は見た目からしてわかりやすい色気=魅力を放つタイプ。対して、星先生はストイックな外見と中身とのギャップがあり、それが妙にシュールで魅力的に見えるタイプなのです。

1巻では、授業中にマンガを描いているのを星先生に注意された前髪長めのメガネ女子や、星先生の観察日記をつけているカチューシャ女子生徒などが登場し、星先生の日常を、静かに乱していきます。

淡々とした日常を描いているだけなのに、登場人物の外見や言動のディティールが細かすぎて、「星先生って実在する人物なのでは……!?」と、思わず惹きつけられる『女の園の星』。

この未体験の感覚にハマる人はきっとハマってしまうはず。

学園ものの漫画を普段読まない人でも、妙にリアルな人物描写に引き込まれ、あるある……と思わずつぶやいてしまうような作品です!

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作者プロフィール:
和山 やま

2019年に発売された初の単行本「夢中さ、きみに。」が第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第24回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。「カラオケ行こ!」など、シュールで独特の作風で注目を集める。2020年1月8日発売のFEEL YOUNG2月号より商業誌初連載となる『女の園の星』を連載中。


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『女の園の星』
著者:和山 やま
祥伝社

女子校の地味な国語男性教師・星先生。学級日誌に書かれた「絵しりとり」や、同僚の数学教師、他のクラスの「副担任犬」などに翻弄される彼の日常を淡々と、しかし、シュールに描く。「このマンガがすごい!2021」<オンナ編>で1位に選ばれた。


構成/大槻由実子