「恋愛と結婚は別物」という言葉はよく耳にします。でも、実際のところはどうなのでしょうか? 結婚したら「好き」だけではやっていけないだろうから、相手の経済力はどうか、家事や子育てなどを自分ごととして取り組んでくれるか、相手の両親や親戚はどうか、などとただ楽しく付き合っている時よりも見極めポイントが厳しくなりがちです。でも、そういった条件を全くもって兼ね備えていない男なのに、なぜか強烈に惹かれてしまうことってあるんですよね……。デジタル恋愛コミック誌「comic tint」で連載中の『好きなオトコと別れたい』の主人公・白石郁子もまさにそんな女性の一人です。

社会人になって、仕事を頑張って、いろんな出会いもあって、といっているうちに、あっという間に20代は過ぎ去っていき30代に突入。ちらほら結婚する友達や同僚が出始めて、親にも「いい人いないの?」と言われることも。仕事はそれなりに責任を伴うようになり、かといって給料が上がるわけでもなし。日本経済の先行きも不安定で、自分が老後を迎えた時にどうなるの? といろんな不安が押し寄せてきます。「好きなオトコと別れたい」の主人公・白石郁子も、「高収入の男と結婚して、仕事辞めたいと思って」と、初詣で買ったお守りを持ち歩いています。

 

いつかは好きな人と結婚して――、なんて夢見ていたこともあったかもしれないけど、大人になれば好きな人と結ばれることが必ずしも幸せではない、ということにもうっすら気づき始めます。そんな郁子は、家でのささやかな晩酌が楽しみで、そして絶賛婚活中です。

 

郁子が、コンビニで寄り道してから自宅に着いたところ、ドアの前で、「郁子〜」と呼ぶ一人の男性がいました。かなり親密そうな感じですが、郁子はガン無視して家に入ろうとします。サングラスをかけて見た目はチャラそうなこの男性の名前は浩次(ひろじ)。郁子が好きな「焼きほたて 貝ヒモくん(キムチ味)」(さっき郁子がコンビニでこれを買おうとしたら、売り切れていたやつ)を買ってきていました。郁子が金曜にこれでビールを飲むのが好きなことをちゃんとわかっているのです。

 

郁子と浩次の出会いは数年前のとある飲み屋。突然声をかけてきて、「なんだか調子のよさそうな男だな」と思ったものの、気づけば付き合っていて、家に居座っていて、いつの間にか仕事も辞めていて、ヒモみたいになっていたとのこと。さすがにこんな男とズルズルするわけにはいかないと我に返った郁子は彼を追い出すのですが、ひと月ほどするとフラっと郁子の前に現れるのです。

 

頭では別れるべきとはっきりわかっていて、もう来ないでほしいと思っているのに、拒絶しきれない郁子。結局は、彼の飄々としたペースに巻き込まれてしまいます。浩次は郁子が自分のことを嫌っているどころか、気持ち的にはかなり好きだということを見透かしています。

 

無職でフラフラしている浩次ですが、他人を放っておけないところがあり、損得や打算なしで手を差し伸べる一面を知っているだけに、彼のことをどうしても嫌いになれない郁子。「条件で好きになった男なら 簡単に切れるのに…」と思ってしまいます。

 

「好きだけで老後は生きられないから」と心を鬼にして、出ていけという郁子。といいつつ、浩次といると楽しいし、楽。というわけで、ずるずると週末を一緒に過ごしてしまったのでした。

 

郁子のようなこの心理状況、「わかるー!!」という人も多いのでは? 将来的なことを考えると苦労しそうなのは明白なのに、相手のことが嫌いというわけではないというか、むしろ好き。もしも新たな出会いを求めるのなら、とっとと見切りをつけて次に行くしかない。郁子だって、無職でいい加減そうなんだけど、心根が優しく、しかも体の相性もよさげな(←ここかなり重要)浩次と一緒にいられたらいいと思っています。でもさすがに無職じゃあ……。頭ではわかっているけど、気持ちや体は抗えない。友達なら「そんな男やめときなって!」って絶対言うでしょうけど、郁子でなくても、「そんなこと私が一番わかってるよ!」と言い返してしまいたくなります。

果たして郁子は、このヒモ男・浩次との関係をどうしていくのでしょうか。浩次は浩次で郁子とのことをそれなりに考えて仕事も探すようですし、郁子の前には仕事ができてイケメンの先輩も現れます。読み進めていくと、浩次はどうしようもない奴なのに、なんだかすごくいい奴に見えてくる。郁子も明らかに浩次と一緒にいるほうが楽しそうで、そしてかわいくみえる!

また、「恋愛と結婚は別物」は本当かどうかということも、ついつい考えてしまいます。好きという気持ちに従うか、条件を冷静に見極めて切り捨てるべきか。結果的にバッドエンドを迎えるかもしれません。でも、結局のところは自分が後悔しない判断ができたかどうかに尽きるんだろうなぁ……。郁子の選択やいかに!? それにしても、「好きなオトコと別れたい」というタイトルが絶妙すぎます。

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好きなオトコと別れたい
藤緒あい 講談社

アラサー女子の郁子には、付き合っている人がいる。でも彼は、郁子の家に居候し、定職につかない、いわゆるダメ男。彼との将来に明るい未来はないと、別れようと試みる郁子だけど、いつもなんだかんだで絆されちゃって……!?