短歌をはじめ、エッセイ、評論など幅広い分野で活躍中の歌人・穂村弘さん。今回、31年前に自費出版された幻のデビュー作『シンジケート』が新装版として登場、発売後即重版がかかるなど話題です。ときめき、憧れ、懐かしさがぎゅっと詰まった本作品は、読む人の心を一瞬でキラキラとした別世界に連れて行ってくれる、ステイホーム時代にぴったりの一冊。今回は穂村さんに、この30年間を振り返りながら、ことばをめぐる変化について伺いました。「ときめきコレクター」穂村さんならではときめきの見つけ方や、若い頃との違いも。
ベテラン歌手が往年のヒット曲を変な節をつけて歌う、みたいにしたくなかった
今回、デビュー作を新装版で出すにあたり、不安もあったそうですね。
「そもそも31年前の歌集の新装版を出すことにニーズがあるのかな?という思いはありました。だから話題となっていることはすごく嬉しいです。あとは、今の感覚で読んだ時にNGと思われる部分があったけれど、一切直さなかったんですね。実はエッセイや対談集は、本にする時に結構表現とかを直しているんです。今回も一瞬迷ったのですが、やはりこれは直す気にならないなと」(穂村弘さん、以下同)
どうしてあえて直さなかったのでしょう?
「それは、読者としての自分を考えた時に、作者が若い時に書いたものを、歳をとってから良かれと思って変えて出されると、すごく腹が立つことがあるからです。本を読み、その本を好きになった時って、それはその経験とともに愛しているから、作者といえども勝手に汚すことは許さん、みたいな思いですよね。何を勝手なことやってくれちゃってるんだよ、みたいな(笑)」
わかります(笑)
「音楽でも、往年の代表作をベテランの歌手が歌うとき、微妙に歌い方を変えることってありますよね。最初にレコーディングした時は正確に符割で歌っていたのに、後から変な風に節回しをつけたり、わざとテンポをずらしたりする。何十年も歌い続けている本人からしたら、ああせずにはいられないのかもしれないけれど、聴く方は抵抗がありますよね(笑)。楽曲が変わっていないのに、歌い方を変えるだけであんなに抵抗があるんだから、ましてや歌詞やメロディーを変えられたらそれは嫌だろうなと、そんな思いがありました」
『シンジケート[新装版]』より
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