何度も読み返し、ずっと手元に置いている大切な本はありますか? でも時間の経過とともに紙は劣化し、汚れたり、破けたりしていきます。そんな本を修復してくれる職人さんがいます。その人たちの本来の役割は、ひとつひとつ手作業で製本し、装丁を施すというものでした。そうした技術や文化、職人たちを称して「ルリユール」と呼んでいます。「ハツキス」で連載され、6月20日に電子書籍の単行本1巻(完結)が発売された「僕のルリユール」は、“ルリユール”にスポットを当てた小さな物語です。

本の女性装丁職人と、年下の少年の淡い恋物語『僕のルリユール』_img0
僕のルリユール』(Kissコミックス)

「僕のルリユール」に登場するのは、女性の装丁・製本職人で、工房「ルリユール」を営む平井本(もと)という一人の女性。装丁・製本職人といってもイメージしにくい仕事かもしれませんが、製本文化が発達しているフランスなどでは、小説や詩集などが仮製本された状態で販売され、それを購入した人が製本工房に持ち込み、自分好みの装丁を施してもらうことが古くから続けられてきました。中世から続く伝統的な技法ですが、日本でも職人は存在しています。この物語に出てくる本もその一人のようです。

本の女性装丁職人と、年下の少年の淡い恋物語『僕のルリユール』_img1

 

物語は、ある女子高生・石崎茜が大事そうに絵本を抱えて、軒先に「本の修繕承ります」という看板がある工房「ルリユール」を訪ねるところからはじまります。そこに現れたのは同じクラスの三葉薪(まき)という男子高校生。薪は本と一緒に暮らしているようなのですが、なにか複雑な事情がありそうです。

 

薪の案内で店内に入る茜。店の奥から出てきたのは、とても聡明そうな顔立ちの美しい女性でした。彼女が装丁・製本職人の本です。茜は小さい頃から何度も読み返してきて、ボロボロになってしまった一冊の絵本を修理してほしいと願い出ます。今な亡き母が直に触れて読んでくれた一冊なので大事にしているとのこと。「問題ありません」と回答。期間は約2週間で、費用や約3〜4000円と伝えたものの、まだ高校生の茜にとっては大金。「えっ!?」と動揺を隠せません。そこに助け舟を出したのが薪。半額にするかわり、残り半分を“労力”で支払う、ということで話がまとまりました。

本の女性装丁職人と、年下の少年の淡い恋物語『僕のルリユール』_img2

 

店をあとにして、帰る茜を送る薪。薪は、装丁・製本職人は、日本ではなかなか製本の仕事がなく、修繕の依頼がメインであるのが現状ということ、そのため本さんもバイトをしていること、家事などの生活能力が低い本さんに代わって、薪さんが家事や仕事の手伝いをしていることなどを茜に語ります。そして、「そういう口実でもないと あの人のそば いられないから」と意味深な一言を漏らします。

本の女性装丁職人と、年下の少年の淡い恋物語『僕のルリユール』_img3

 

茜は早速工房に通い、絵本修繕の手伝いにとりかかります。まずは本を綴じてある糸を切ってほどき、それぞれのページにしてから傷んだページを直したり、割れてしまった背表紙を直したりしていき、絵本がきれいに蘇っていきます。茜が自宅で満面の笑みを浮かべて絵本を眺めていたところ、絵本に興味を持った弟が「みたいみたい」と大騒ぎし、絵本を引っ張った拍子にページの一部を破ってしまいます。

本の女性装丁職人と、年下の少年の淡い恋物語『僕のルリユール』_img4

 

茜が母との思い出として大事にしていた絵本がどうなってしまったかは、第一話の試し読みで確認してもらうとして、物語はいろんな思いを抱いて工房を訪れる依頼者に向き合う本と、それをそばで見続ける薪を中心に展開していきます。本の修繕や製本について知ることができるのも読みどころの一つです。

薪と本は知らない人が見ると、少し歳の離れた姉弟に見えますが、実は、薪からみた本は薪のお兄さんの孫、すなわち“大姪”という聞き慣れない間柄。薪は元財閥系の三葉グループ跡継ぎとして生まれ、実家での息苦しさから逃げ出して、本の工房兼自宅に居候させてもらっている身でした。一方の本は尚之という同じく製本職人の夫がいたのですが、6年前に事故で命を落としてしまいました。本は夫との思い出が詰まった工房を守りつつも、夫への想いに囚われ、笑顔を見せなくなっていました。そんな本を間近に見続けてきた薪は、本に対して淡い恋心を抱くようになります。

ルリユールとは、もう一度〜する、〜し直すといったことを意味する「re-」と、(糸で)綴るの「lieur」を組み合わせたフランス語のこと。糸を綴じて本を形作っていくように、この物語も5つのエピソードを通して、薪と本のお互いへの思いや、何を選び取っていくべきか、ということが丁寧に描かれています。ずっと手元に置いておきたくなるような、小さな温もりのある物語です。

無料公開をぜひチェック!
▼横にスワイプしてください▼

続きはコミックDAYSで!>>

本の女性装丁職人と、年下の少年の淡い恋物語『僕のルリユール』_img5
 

『僕のルリユール』

小田原みづえ 講談社

ルリユールはフランスで開花した装丁文化。一冊一冊、時間をかけてじっくり丁寧に書物を製本していく。寡黙な装丁職人(ルリユール)の平井本と、彼女に淡い想いを寄せ、店の切り盛りを手伝う年下の少年・三葉薪。実は遠縁の関係にある彼らの元には、今日も訳アリの書物が持ち込まれる……。『大正ロマンチカ』『初恋ダブルエッジ』の注目作家・小田原みづえが描く、美しい職人世界と、淡く切ない恋物語!!