蛸、と聞いて連想するのは、面妖な動きや、吸盤、墨などユニークな特徴。そこから、「グロテスク」「エロティック」などのモチーフに使われることもしばしば。
しかし、最近では蛸の高度な知力についての書籍が数多く刊行されたり、ネットフリックス映画『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』が2021年アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞し注目されるなど、ちょっとした蛸ブーム(?)の予感。
そして、刊行されたばかりの絵本『わたしのともだちポルポちゃん』(文・もとしたいづみ 絵・北見葉胡 講談社)は、語り手の少女とそのたいせつな友達である蛸のポルポちゃんの日常と冒険を描いたファンタジー。
もとしたいづみ氏は、超有名キャラクター会社に勤めた後、雑誌編集者を経て、児童ものの作品を数多く手がける文章作家に転身。絵本『ふってきました』(絵・石井聖岳 講談社)では、講談社出版文化賞絵本賞(現・講談社絵本賞)、日本絵本賞を受賞。楽しく、そしてすっとぼけた空気感が爽快な作品を数多く送り出しています。
いっぽう、北見葉胡氏は油絵を基調とした重厚で濃密な画面作りに定評があり、絵本では「絵本・グリム童話」シリーズ(文・那須田淳 岩崎書店)、児童文学では「安房直子コレクション」(偕成社)や「はりねずみのルーチカ」シリーズ(文・かんのゆうこ 講談社)でもおなじみの画家です。
文章作家のもとした氏が、画家の北見氏の個展で「いつか絵本をご一緒したい」とメッセージを残したのがご縁のはじまり。それから紆余曲折をへて、もとした氏が書き上げたのが、「はっぽんさん」という文章作品。
それは、北見氏のホームページでみつけた一枚の絵からインスパイアされたのだそうです。
その「蛸を飼う」という絵、古色をおびた画面の中で、ひっそりとした路地にたたずむ少女。その子が水槽と思しきところで、手にしているのは、蛸。想像を掻き立てずにはいられない、どこか昭和の香りもする独特な雰囲気をもつミステリアスな一枚です。
しかし、ここからもとした氏が創り上げたのは、なんともチャーミングな、女子友ふたりが繰りひろげる、楽しい日常とちょっとした冒険の物語。ちなみに、最初についていた蛸の名前「はっぽんさん」は北見氏のアイデアにより、この可愛さに似合う名前「ポルポちゃん」に変更されることに。
お話はこんな風に始まります。
「ポルポちゃんははずかしがりやです。わたしのともだちがあそびにくると……ほら、すぐかくれちゃうんです。」
そんな人見知りの蛸のことを、女の子はこうも言います。
「でも、わたしとふたりのときは、
かくれたり にげたりしません」
一緒に本を読んだり、お菓子を食べたり、仲良く遊びます。
しかし、ある時ピンチが訪れ、皆の注目をあびることになったとき、はずかしがりやのポルポちゃんは、少女を連れてぶっちぎりで逃げ出すのです。その逃亡劇が、昔のギャング映画の悪者から逃げる主人公のようで、可愛くもおかしく、爽快感たっぷり。
そして、追っ手を振り切ったふたりがたたずむ砂浜のシーンは、友達との大切な時間を象徴しているようで、心の通じ合う友達のありがたみが、いまだからこそ余計に身にしみる。
もとした氏は、こう語っています。
「この絵本は、“友達自慢”の話と言ってもいいかもしれません。だれにでも弱点はあるし、自分だってぜんぜん完璧じゃない。それをわかってあげて、わかってもらえる関係。そんな友達と一緒なら、いつだって楽しい。何があっても大抵のことは解決できる! 友達のことを自慢できるって最高に素敵なことだなあ、と思えてきます。」
友達って、子供の時は、毎日会える空気のような存在だけど、大人になればなるほど、お互いの状況が違って、タイミングを合わせるのも難しく、簡単に会えなくなったりする。
でも、会えば、出会った時のふたりに戻れて、深刻なことも、くだらないことも、なんでも言えてなんでも聞ける存在。そんなことを思いながらこの絵本を読むと、縁遠くなっていた友達に連絡をとるきっかけにもなりそう。
画家の北見氏にとって、この絵本は特別なものになったそうです。
「小学二年生まで兄弟のいなかった私は、家に帰っても一人でした。ポルポちゃんみたいなおともだちが家にいたら、ずっと楽しかったに違いありません。だから、その頃の自分への贈り物の気持ちで、この絵本を描きました。宝物のように愛おしいです。」
ピンクの水玉が二人を優しくつつむような愛らしい表紙は、エッジのきいたデザインで定評のある装丁家の丸尾靖子氏によるもの。可愛い包み紙でラッピングされた贈り物のように、自分や、大切な友人に贈ってみたくなる一冊です。
試し読みをぜひチェック!
▼横にスワイプしてください(実際は左開きの絵本です)▼
『わたしのともだちポルポちゃん』
もとしたいづみ:文 北見葉胡:絵
たこのポルポちゃんとわたしは、とってもなかよし。遊ぶときも、お茶の時間も、いつもいっしょ。ある日、お城に招待されて、ポルポちゃんはわたしのドレスとなったのですが……。
文/講談社 幼児図書編集部
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