社会から排除されないために男たちがすべきことは?

 

「男社会」の価値観が生む弊害を指摘してきた奥田さんですが、決して旧態依然とした男性を敵視しているわけではありません。価値観の大きな転換点にある今こそ、異質なものを排除しようとする社会の悪循環を断ち切るチャンスであると提言します。

「『男社会』の古い価値観に固執している限り、近い将来、男たちは社会的排除の憂き目に遭うだろう。自分たちがかつて男性優位社会の同調圧力のもと、女性を、『男らしくない』男性を、規範から逸脱した異質なものとして排除してきたのと同様に、今度は自らが排除されてしまうというわけだ。このような負のスパイラルを今こそ、断ち切る必要がある。そうして、社会から捨てられないために、まず男たちそれぞれが新たな男性像を切り開いていかなければならない」

そのためには、「他者が、組織が、社会が決めた評価基準に惑わされず、己の確固たる信念に基づいて自分のものさしで自己評価」することが大事であると指摘します。男性主導の社会や組織という、ある意味守られた枠の中で戦ってきた男性にとってはかなりハードルの高い挑戦になることでしょうが、それは決してこれまでの自分を全否定することではないと奥田さんは説いています。

「古くからの固定的な『男らしさ』すべてを捨て去る必要はない。己を見つめ直し、自分なりに『男らしさ』の概念を捉え直してみるのである。固定観念を覆す十人十色の『男』がいてもいいのではないだろうか」
 

 


著者プロフィール
奥田祥子さん:近畿大学教授。ジャーナリスト。博士(政策・メディア)。専門は労働・福祉政策、ジェンダー論、メディア論。京都生まれ。1994年、米・ニューヨーク大学文理大学院修士課程修了後、新聞社入社。新聞記者時代から独自に取材、調査研究を始め、2017年から現職。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。2000年代初頭から社会問題として俎上に載りにくい男性の生きづらさを追い、2007年に刊行した『男はつらいらしい』(新潮社、文庫版・講談社)がベストセラーに。「仮面イクメン」「社会的うつ」「無自覚パワハラ」など、斬新な切り口で社会病理に迫る。市井に生きる人びとの苦しみに寄り添い、声なき声を拾い上げることを信条に、対象者一人ひとりへの最長で20年に及ぶ継続的なインタビュー手法が持ち味。著書に『男性漂流 男たちは何におびえているか』(講談社)、『「女性活躍」に翻弄される人びと』(光文社)、『社会的うつ うつ病休職者はなぜ増加しているのか』(晃洋書房)、『夫婦幻想』(筑摩書房)、『男という名の絶望 病としての夫・父・息子』(幻冬舎)などがある。日本文藝家協会会員。

『捨てられる男たち 劣化した「男社会」の裏で起きていること』
著者:奥田祥子 SBクリエイティブ 990円(税込)

パワハラやセクハラ、家庭内モラハラなどの告発を受けるに至った男性たち(一部女性)の心理と、それを生んだ社会的背景に迫る渾身のルポルタージュです。20年にわたる取材を通して浮かび上がってくるハラスメントの実情がとても生々しく、彼らを一概に悪者にできない悲哀に満ちたエピソードが満載。自分が加害者もしくは被害者にならないための参考にもなるでしょう。



構成/さくま健太