妻が風邪で寝込んでいる時、「お弁当を買ってきて」と夫に伝えると、夫が自分のお弁当だけを買ってきたり、「なにかご飯を買ってきて」と頼んだら、白いご飯だけを買ってきたという話もあります。もちろん、夫は言われた通りに行動したまでです。「リクエストにはきちんと応えているのに、何がダメなんだ?」と信じて疑わず、妻の言動を理不尽だと思い傷ついてしまいます。それを避けるためにも、夫としては、妻から必要なことを具体的に伝えてもらえることがなにより大事です。

ASDが悪いわけでも夫が悪いわけでもない

 

私たちが診断をする際、特に留意しているのは、
「ASDの人たちを責めたり、傷つけたりすることがあってはならない」という点です。
そしてカサンドラ症候群の場合、まず理解していただきたいのは、
「どちらか一方が正しくて、どちらか一方が間違っているという問題ではない」
ということです。

カサンドラ状態にある妻たちが抱える主な苦悩は、「相手の気持ちを想像することが苦手」な夫の特徴が、長い間周囲の人々に理解されず、また、夫や夫の実家、友人たちから「妻のほうが悪いのではないか」と言われていることです。

 

しかし昨今、発達障害の知見が広まったことによって、妻たちが抱えてきた苦悩に対する理解が少しずつ浸透しています。そういった情報を社会が共有することで、妻たちは「私もそうかもしれない」という希望を得ることができています。希望を見つけた彼女たちは、さまざまな場所で立ち上がり始めています。その結果、妻たちが自助グループを作り、活動を始めているケースもあります。

彼女たちが参加するグループは、「周囲に理解されず苦しんできたのは自分だけではなかった」「わかってくれる人がいる」という安堵感につながり、気持ちを吐き出す場所として大きな助けになっています。