安田:フジテレビ抗議デモと銘打った集まりを取材しましたが、東京・お台場のフジテレビに6500人集まった。6500人がフジテレビを取り囲んで、「韓流ドラマはいらない」とシュプレヒコールを繰り返している。そして彼ら彼女らは、日本のテレビ局が韓国に奪われたと主張するわけです。バカバカしいけど一種の喪失感を見た気もしました。当然そこにはヘイトな主張も混ざっているわけです。

 

青木:旧来の偏見や差別に加えて近親憎悪や不安感、喪失感が相まっている複合症状。安田さんの話をうかがっていると、近年の日本に広がるヘイト的な風潮もやはり、トランプを支持するアメリカの現象などと相似形の面がありますね。過度な新自由主義とグローバリズムなどの煽りを受けて没落した中間層が深い喪失感を抱き、将来が見通せない不安感や焦燥感も手伝って「アメリカを再び偉大に」と叫ぶトランプのようなポピュリストにすがってしまう。その周囲には反知性主義や陰謀論なども渦巻いている。

同様に日本で蔓延するヘイト言説も、かつてのような上から見下しての差別や偏見だけでなく、まさに下から見上げての差別もあって、喪失感や不安感が排外主義に結びついている。いわば喪失感や不安感を埋め合わせるために。それを正当化する「在日特権」などというのは妄想にすぎないけれど、この点も反知性主義や陰謀論と通底します。

 

安田:彼らからすると韓国は自分たちが上から見下して差別する対象というよりも、韓国によって奪われる一方の日本という現状認識なんです。テレビも奪われた、と。象徴的なプラカードは「フジテレビはサザエさんだけやってればいい」みたいなものでした。

つまり、韓国にテレビの帯枠を与えるなということを必死に主張していた。差別を土台とした「危機感」が、あそこまで人を集めたと思うし、各地で反対運動が盛り上がったのも事実だと思います。そのころから、韓流ドラマをはじめ、韓流とされるものに対するアンチテーゼの動きは強くありました。