障がいや難病を抱えながらも、卓越した才能を発揮している人は少なくありません。3歳の時に脳性まひと診断されたバイオリニストの式町水晶(しきまち・みずき)さんもその一人。4歳の時にリハビリを兼ねてバイオリンを習うようになり、今では演奏に加え、作曲やアレンジでも人々を魅了するポップ・バイオリニストとして活躍をしています。7月に最終巻(4巻)が発売された斉藤倫の『水晶の響』は、彼をモデルにしたマンガオリジナルストーリーです。

『水晶の響』(4) (BE LOVE KC)

3歳の時に脳性まひと診断され、立って演奏し、両手両足を使うことからリハビリにいいということで4歳からバイオリンを始めた式町水晶。5歳には視神経乳頭陥凹拡大(緑内障)が見つかりますが、それでもバイオリンに魅了され、プロのバイオリニストになりたいという夢を抱くようになります。

 

小学5年生の水晶は「スーパーキッズオーディション」でバイオリンを披露し、最高得点を獲得しますが、脳性まひがあると仕事に支障があるからとグランプリを獲得することができませんでした。それでも水晶は明るくて前向きで、小学校の特別支援学級で出会った、1学年上の奈月(なっちゃん)という親友にも恵まれていました。

 

なっちゃんは聴覚障がい者で人工透析患者でもありましたが、踊ることが大好き。お互いの存在が刺激になって、楽しい毎日を過ごしています。水晶はなっちゃんに自分にとって大切なバイオリンの音色を聴いてもらいたいと願いますが、なっちゃんは耳が聞こえません。そんなある日、バイオリニスト・中吉俊博のライブに行き、その演奏に衝撃を受けます。

 

パワフルな音色は、空気が響き、音が向かってくるようでした。これならなっちゃんもバイオリンの音を感じ取ってくれるかもしれない。そう思った水晶は、中吉に師事したいと、何度も手紙を書くようになります。

時は過ぎ、水晶より1学年上のなっちゃんは卒業を迎えることに。卒業後はろう学校への進学が決まっていたので、水晶とはお別れです。水晶は卒業式の日に、バイオリンの演奏を披露します。なっちゃんに届けと願いを込めて演奏すると、なっちゃんはその音色に合わせて踊ってくれました。お互いが重なり合うような感覚を共有し、「いつか一緒の舞台でやろうぜっ」と誓い合う二人。こうして水晶は、ますますプロバイオリニストへの思いを強めていきます。

 

なっちゃんが卒業後にろう学校に行く決心をしたように、水晶も6年生から通常学級への編入を決意します。また、水晶の熱意が通じ、中吉がレッスンを受けてくれることになります。でもその一方で、編入した通常学級で水晶の障がいをからかうクラスメートが現れはじめます。

水晶のモデルとなっている、バイオリニストの式町水晶さんは、その通常学校で凄惨ないじめに遭います。一時はバイオリンを辞めようと思いますが、彼を支えてくれたのもまたバイオリンでした。

「障がいやいじめを乗り越えて〜」とまとめてしまうのは簡単かもしれませんが、当事者にとっては一言で言えるようなことではないはずです。本作では、水晶の心の動きと成長を丁寧に描いており、読み手にも前向きな気持ちを与えてくれます。作者の斉藤倫さんは、たまたま知人に誘われて訪れたコンサートで16歳の式町水晶さんの演奏を目の当たりにして、「いつか彼の事をモデルにして漫画を描いてみたい」と思い続け、実現したのが本作です。単行本1巻には、水晶が生まれてから障害が見つかり、バイオリンを手にするまでの読み切り「水晶の音」が収録されているので、こちらも合わせて読むと、水晶のことをより深く知ることができるので、こちらもぜひ読んでみて。
 

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『水晶の響』
斉藤倫 講談社

3歳のときに脳性まひ(小脳低形成)と診断された式町水晶はバイオリニストを目指している。耳の聞こえない親友なっちゃんとの交流の中で、自分の音をどう伝えたらいいのか悩むが、そんなときバイオリニスト中吉俊博のライブを観て衝撃を受ける。一つ年上のなっちゃんの卒業が間近に迫り、なっちゃんに「音」を聴かせたい水晶は……!?  この漫画はバイオリニスト式町水晶さんをモデルにしたフィクションです。