――夕方に待ち合わせ。少し観光をしたら早めのディナー。その後は……

武臣との今夜の予定を妄想しては、その度に胸を熱くしている自分が嫌になる。

――二十三時、遅くとも二十三時半には帰宅しなきゃ。相手のペースに巻き込まれないように、自分を見失わないようにしなくちゃ……

ふいに携帯が鳴った。

「エッフェル塔が真正面に見えるよ。これが葉子が見ていた景色なんだな」

武臣だった。いつもより近くにいるせいか、いつもより声もクリアな気がしてならない。

「シャイヨー宮にいるの⁉」

 


「うん。さっきホテルにチェックインして、これからクライアントとミーティングなんだけど、真っ先にここに来てみたかったんだ」

「そんな、私、今お風呂から出たばっかりで。それに、近所の知り合いに見られるかも……」

私がパニックになっていると「いいんだよ」と全て包んでくれそうな優しい声がした。

「俺が勝手に来たかっただけ。もう行かなきゃ。ただここに立ったら、葉子に電話したくなっちゃったんだ。困らせてごめんな。じゃあ――」

「待って! すぐ行くから、待ってて!」

私はすっぴんのままジーンズにTシャツ、スニーカーに足を突っ込み、全速力で駆けた。二日連続で朝から駆けずり回っていて滑稽だ。誰かに見られたらどうしよう。

だけど、だけど……!

 


パリの街角のリアル
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NEXT:8月20日(金)更新

急いで武臣のもとへ向かう葉子。二人でセーヌ川クルーズへ向かうと、思いがけない人を見かけて……。


撮影・文/パリュスあや子


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