恋愛では「男は名前をつけて保存、女は上書き保存」といいます。実際のところどうなのかは、性差ではなく個人によって違うのかもしれません。けれど、名前がつかなくても、上書きされなくても、何年経っても残り続ける「不可侵領域」のような想いというのは、誰しも覚えはあるのではないでしょうか。

『恋と友情のあいだで』は、互いが互いの「不可侵領域」であり続けた男女のストーリーです。

本作は、グルメアプリ「東京カレンダー」で激烈な人気を集めた連載小説『恋と友情のあいだで』のコミカライズで、集英社ウェブサイト「よみタイ」などではウェブ累計2000万PV超えした超人気コミックです。

 

サブタイトルに「いつか終わる恋よりも、一生続く友情を選んだふたり」とあるように、主人公は男女二人。その一人、相沢里奈は典型的な「港区女子」。若さと美貌を武器に、港区で年上男性を相手に遊び歩いている大学時代の様子からストーリーははじまります。

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日々、合コンやパーティーに明け暮れ、「港区おじさん」を品定めしている女子大生
©️ふるかわしおり/集英社

そしてもう一人の主人公は、同級生の一条廉。里奈とは大学の学部・専攻・クラスなどが同じで、一年生の時にたまたまゴルフサークルの新歓コンパで隣になったことから話すようになりました。

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新歓コンパで出会うも、お互いに「恋愛対象外」と見なしていた二人

里奈が「港区女子」として大学では周りから浮いている存在なのに対し、廉はリーダー的ポジションで人気者と、共通項はなかった。ついでに、里奈は廉のタイプでもないらしい(笑)。

けれど、就活で同じ商社を目指していることがわかったことから、二人は連絡を取り合う仲になります。「一緒に 頑張ろうぜ」
そして、ある出来事をきっかけに、彼女は廉に対して特別な感情を抱くようになります。それは本能的な「離れたくない」という感情でした。

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落ち込んでいる様子の里奈の肩を叩いて励ます廉

それから、里奈と廉は商社に総合職として入社し、2年が経ちました。


商社マンとしての素質を発揮し、出世街道まっしぐら、毎晩食事会で女性にも困っていない様子の廉。その一方で、里奈は会社の飲み会ではお酌担当、時には安いホステス扱い、誰も助けてくれない中、「とにかく会社から逃げたい」と思うようになり、夜の港区に舞い戻っていました。
そこで出会った年上のメーカー役員の彼氏・直哉に仕事の辛さを打ち明けると、「家でゆっくり好きなことしてさ 俺の子ども産んでよ」とプロポーズをされます。

これこそ「港区女子」の手堅い選択といえるはず、なのですが、就活時代に廉から言われた言葉が心をよぎります。

「一緒に 頑張ろうぜ」

結局、その言葉を打ち消すように、里奈は商社の総合職を手放し、直哉と結婚して寿退社し、専業主婦に。

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息苦しい社会から救い出し、楽な生活を保証してくれる男を選ぶのが正解?

こうして、「港区女子」として申し分ないステイタスを手に入れた里奈。合コン相手や周囲の女性など、相手を「格付け」する彼女の傲慢さは、作品冒頭からしっかり描かれています。一番わかりやすいのは、廉の彼女・美月を見た時。一目見ただけで、里奈は美月のことを「まさに量産型の女」と称し、自分より下のランクの女だと見なします。

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3才年上の美月は「居心地の良さ」を廉に提供し、彼の心をつかんだ

でも、かつて里奈にとって「離れたくない」存在だった廉は、そんな美月と結婚してしまうのですが……。

また、傲慢さだけでなく「港区女子」が陥る不幸についても描かれています。セレブ妻として順調な結婚生活を送っていたはずが、夫となった直哉の浮気相手が「男に飼われている側」ではない女社長だと知った時、里奈は強烈な感情を抱きます。

社会と縁の切れた”専業主婦”という
自分の立場を嫌というほど実感させられ 胸がザワついた

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夫婦の定義にズレが生じ、愛情の格差がどんどん開いていく里奈と直哉

泣きながら夫に問い詰めても、「俺と別れるのは困るだろ?」「俺たちは”理想的な夫婦”じゃん」と言いくるめられ、海外旅行では欲しかったチャームウォッチを買ってもらい、自分は比較的恵まれた女だと信じこんで、元の穏やかな妻に戻る里奈。何不自由なく暮らしているように見えて、カゴの中に閉じ込められている「港区女子」の不幸が感じられるのです。


さて、ちょっと視点を変えて、コミカライズならではの魅力についてご紹介します。
連載小説の時にはイメージカットでしか見られなかった登場人物たちや舞台となる各シーンが実際にあるスポットで細かく描かれることで、作品世界により入り込みやすくなっています。

たとえば、24歳になった里奈と廉が遭遇したのは、東京駅近くの「GARB Tokyo」。

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レストランやホテルの描写はリアリティーを追求している

そのほか、廉と美月が一緒にいるところを見かけたのが南麻布の「茶禅華」、直哉と浮気相手を目撃したのは青山AOビルの「TWO ROOMS GRILL | BAR」だったりと、各シーンが実際にあるスポットで描かれることで、登場人物の住む世界のレベルを感じられるのです。


里奈と廉はお互いに気になる存在であり続けながら、すれ違いを続けます。互いに恋愛感情を抱いているのは明らかですが、二人はなかなかそれを認めません。己の本能を見て見ぬフリをして生きている者たちが、本能を認め、従っていく過程を描いている、ともいえます。けれど、二人の置かれた現実は、それを認めるほど甘くなさそう。

ドラマチックに展開するストーリーと、トイアンナさんの冷静でリアルな分析コラムを行ったり来たりしながら、里奈と廉がこの先、いつ、どんなシチュエーションで道を踏み外すのか? 踏み外さないのか? 気になってしかたなくなってきて、次巻が待ち遠しくなる一作です。


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『恋と友情のあいだでvol.1 いつか終わる恋よりも、一生続く友情を選んだふたり』
ふるかわ しおり (作画), 安本 由佳  (原作), 山本 理沙 (原作), トイアンナ (コラム)

あの頃のふたりを君はまだ覚えてる? 若さと美貌で誰もが羨む暮らしと恋愛を謳歌する里奈。人生に不満なんてないはずなのに、心の奥底にはいつも大学時代の同級生・廉の存在があった。そして、享楽的な生活を送る廉もまた同じで⋯⋯ 。グルメアプリ「東京カレンダー」連載の大人気小説を完全コミカライズ。


作者プロフィール

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作画:
ふるかわしおり

漫画家。代表作は「別冊マーガレット」で連載された『ファイブ』。その他『はにめろ。』(「ジャンプSQ.」)『大木先生と小鮫さん』(「週刊ヤングジャンプ」)など著書多数。2021年現在、ドラマ『ファイブ』がFODにて配信中。 『ファイブ』の続編『ファイブ+』を「月刊アクション」にて執筆中。
Twitter:@Shiori5Furukawa
Instagram:shiori_furukawa_official

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原作:
安本由佳

作家。本書の原作小説『恋と友情のあいだで』では廉Ver.を担当。 慶應義塾大学卒。『不機嫌な婚活』(講談社文庫)で作家デビュー。ウェブサイト「よみタイ」にて『不良夫婦(夫side)』を連載するほか、『働く女性のお悩み相談室』(Oggi.jp)、『パパ活~新貧困時代の女たち』(現代ビジネス)など幅広いジャンルの連載を執筆中。 
Twitter :@yuka__yasumoto 
Instagram:yuka__yasumoto 

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原作:
山本理沙

作家・webライター。本書の原作小説『恋と友情のあいだで』では里奈Ver.を担当。84年東京都生まれ。日本女子大学卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経て作家へ。東京カレンダーWEB・アプリにて、『結婚願望のない男、東京ホテル・ストーリー』など多数のヒット連載を執筆。2020年に、安本由佳氏との共著『不機嫌な婚活』刊行。ウェブサイト「よみタイ」にて『不良夫婦(妻side)』を連載中。 
Twitter:@lisa__yamamoto
Instagram:lisa__fluffy

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コラム:
トイアンナ

起業家・ライター(恋愛/就活)。 慶應義塾大学卒業後、外資メーカーのマーケターを経て、独立。 編集プロダクション「WERITE」、短期集中型ビジネススクール 「Skill BootCamp」代表。 『確実内定』『モテたいわけではないのだが』など著書多数。 
Twitter:@10anj10
note:https://note.com/toianna
Blog:http://toianna.hatenablog.com/

 


構成/大槻由実子


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