まだ記憶に新しい東京五輪での新競技、「スケボー」ことスケートボード。
ライバルである相手選手の技が成功すると歓声を送り、失敗すると一緒に残念がる様子や、解説者が若者言葉でくだけた口調ながらもすべての選手をリスペクトし時に励ます姿勢に、「自由な空気を感じた」という声が集まりました。

『スケッチー』は、スケボーをするガールズ・スケーターたちの群像劇を描いた作品。ドラマ化もされた朝ごはんマンガ『いつかティファニーで朝食を』のマキヒロチさんの最新作です。

『スケッチー』(1) (ヤンマガKCスペシャル)

レンタルビデオ屋の社員・31歳の川住憧子(アコ)は、店舗での仕事も忙しく、長年付き合った彼氏もいて充実した日々。と思いきや、無表情でぼんやりした顔をして日々を過ごしています。休日なのにバイトの代打でシフトに入ったり、社員ならではの気苦労もあるけれど、もっとも憂鬱なのは学生時代の同期との女子会でした。

 

「お嬢様学校」時代の同期との女子会に浮かない顔をしているのは、キラキラしたノリについていけないから。仕事帰りにラフなパーカーのまま女子会に参加してしまうアコは、のっぺりとした表情をしてみんなを眺めているのです。

 

同期にどうも馴染めず、黙ったまま眺めるだけのパーカー姿のアコ。

 

ジョーマローン、サンタマリアノヴェッラ……同期の一人が結婚するというので、みんなが渡すハイセンスなプレゼントの中、アコが取り出したプレゼントは、ホラー映画のDVD。「オシャレなのはみんなが持ってくると思って」と言うと、「だからって空気読まなきゃ〜」と言われてしまいます。

 

どうにも馴染めない女子会から酔って帰宅すると、脚本家の彼氏・怜くんが家に来ていました。「お嬢様たちと飲んできた」アコが、「怜くんは何してたの今日?」と聞くと、「映画を観てきた」と彼が語りはじめます。

彼が観てきた映画の感想を聞きつつ、「一緒に暮らさない?」と思い切って伝えても、あっさり断られる。予想していたけれど、もう30過ぎてるのにずっとこのままなんだろうかーー。

 

翌日の仕事では納品は多いわ、オープン準備前の立て込んでいる時に忘れ物の問い合わせが来るわ、新人が2人も入るわで、帰宅時にはビールを飲みながら歩いているほど疲れ切った状態のアコ。

 

ビルと桜の光景にほろ酔いで見惚れていると……ある出会いが。

 

ビル街に突如、高くジャンプするスケボーの女の子。
仲間の子たちがその様子を撮影していました。

アコは、高くジャンプした子の顔を見て思わず「アスカ」と声をかけて、涙を流します。

「アスカ」とはかつての「お嬢様学校」時代の同級生。でも、先日の女子会には来ていなかった子です。今では有名人になって、街中の看板や雑誌で見かけるけれど、誰かがアスカの名前を出すと、数人がアコの方を見て、黙って話を変えてしまうような存在。アコも何も答えられず黙ってしまいます。
アコと「アスカ」は、なにやらワケありの様子⋯⋯。

「あの娘なんて名前なんだろう?」
「あの娘にもう一度会いたいな」

そんなアスカによく似た女の子のことが気になって、アコは翌日、彼女を探しに同じ場所に行って、インスタグラムでガールズ・スケーターについて検索しながら待ちます。でもその日は再会できず。

数日後、別のガールズ・スケーターが練習しているところにたまたま遭遇し、女の子がスケボーを乗りこなすカッコ良さを再び目の当たりにしたアコ。
その後、捨てられていた古いスケートボードを見たのをきっかけに、同僚のしほを誘ってスケートボードスクールの体験に行くことにします。

そこから、スケボーの技(トリック)の練習とガールズ・スケーターたちとの交流を楽しむ毎日がはじまるのです。


アコが出会うガールズ・スケーターたちには「スケボーのマインド」が感じられます。

初心者のアコがスケートパークで練習しようとした時、街中で会ったガールズ・スケーターの一人が、躊躇するアコに気づいてくれて、「ランプ」というセクションで滑るコツをフレンドリーに教えてくれるシーン。手をつないでもらいながらランプに挑戦し、アコは技のスピード感と楽しさを知ります。

終わった後にアコが一言。

なんか スケーターって優しいね 困ってると 助けてくれるんだね

 

技(トリック)ができると喜んでくれるガールズ・スケーターたちには、立場の上下という考えがなく、できない人にはできる人が教えてあげようというフラットさがあります。時にはできない人が盛大にすっ転んで、教えた方がとばっちりでケガをすることもあるけれど、スケーターだったら全然気にしないのだとか。自由で風のようなマインドです。

自由さは服装にも表れています。スニーカーを履き、パーカーやオーバーサイズのTシャツにパンツスタイルで、軽やかでジェンダーレスな格好をしたガールズ・スケーターたち。何かルールや暗黙の了解があるのかな? と思いきや、ファッションの縛りはスタイルがあれば、なんでもOKなのだそう。もちろんスカートが好きな子は穿いたっていいんです。あとは、

うまければどんな服着ててもかっこよく見えるんで!

なのです。

 

こんな風に、ショーパンもサロペットも全然アリ。髪型だって多種多様。誰かのマネをしなくたっていいんです。

作中で、スケボーの世界にハマっていくのは、アコだけではなく、スタイリストの道を諦めた時の記憶を思い出したくない同僚のしほ、作家と不倫をしていたのが職場にバレて庶務課に異動させられた編集者のいずみ⋯⋯ など、みな「停滞」の時を迎えているアラサー女性。

また、彼女たちと出会うガールズ・スケーターたちも、「停滞」を感じています。

日本で初めての女性フィルマー(スケーターを撮影する人)を目指すも、「女性にしか撮れないもの」って何? と悩んでいるOL兼スケーター。
地元にパーク(練習場)がなく、あるもので練習を重ねて才能を伸ばしてきたけど親にスケボーを反対されていたり、将来有望なアスリートとして期待される一方で伸び悩む対照的な女子高生の2人。

でも、彼女たちの気持ちは一つ。「もっとスケボーがうまくなりたい!」。
だから、転んで怪我をしても、すぐに立ち上がって必死に練習する。

スケボーを通じて解き放たれたり、つながってゆく女の子たちの姿から、スケボーと言う競技の、自由で風のようなマインドが感じ取れ、「今の時代のかっこいいってこういうことだ!」とはっとさせられる作品です。


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『スケッチー』
著 マキ ヒロチ

ビデオレンタル店の社員・川住憧子は仕事や彼氏との関係に、日々忙しくしつつも、ぼんやりとした毎日を送っている。ある日、一人のガールズスケーターに心を奪われたことで、スケートボードの世界に足を踏み入れ、自分を変えることの楽しさと希望を見出してゆく。

作者プロフィール
マキ ヒロチ

第46回小学館新人コミック大賞入選。ビッグコミックスピリッツにてデビュー。トリンドル玲奈主演でドラマ化された『いつかティファニーで朝食を』や『創太郎の出張ぼっちめし』(いずれも新潮社)などが代表作。「コミックDAYS」(講談社)で『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか?』、「月刊ヤングマガジン」(講談社)で『スケッチー』を連載中。


構成/大槻由実子