いつも前向きで明るく、行動力があって、自分のやりたいことがはっきりしていて……、っていう自分になれたらいいのですが、なかなかそうもいきません。むしろ、そうしたくてもできない、自分ではそんなつもりじゃないのに、理想からどんどんかけ離れていく、なんていう人の方が多いのではないでしょうか。ハツキスで連載され、6月に最終3巻が発売された漫画『ふたりぐらし』は、生きるのが不器用な女性たちの物語です。
『ふたりぐらし』は、タイトル通り二人で暮らす女性たちが主人公です。一人はゆりな。男性に求められるとすぐに寝て、お金にも男にもだらしないところがあります。仕事をしても職場の女性から敵視されやすく、友達といえる人がいませんでした。
もう一人はふみ。漫画家をしていますが芽が出ずにいます。書店で働いていた時にゆりなと一緒になり、セクハラを受けているゆりなを助けたことがあります。それがきっかけで女友達のいないゆりなに懐かれ、成り行きでゆりなと一緒に暮らすことになります。
一緒に暮らしているといっても、ゆりなは家賃や光熱費の一部を負担しているわけではなく、ただの居候。しかも、夜中にゆりなにつきまとう若い男性が騒ぎ出し、警察官が来ることも。ゆりなに好意を持つ彼のつきまといがエスカレートしたのは、彼のあまりの熱心さに辟易したゆりなが、「早く私に飽きてくれたらいいのに」と思って肉体関係を持ったから。さらにはゆりなは、彼女持ちのこの警察官とも流されるままに関係を持っていたことが明らかになります。
ゆりなは自分が男にもお金にもだらしないことは自覚しています。なんとか変えたいと思っても、気付いたら同じことの繰り返し。傍から見ればふわふわと楽しそうに生きているように見えるかもしれませんが、内面では自分の馬鹿さ加減に押しつぶされそうだったのです。
そんなゆりなにとって、家賃や光熱費を負担しないことにブツブツ言いながらもゆりなを住まわせてくれて、いろんな男と寝ていても笑い流してくれるふみの存在はかけがえのないものでした。できればこの先もずっと一緒に暮らしたいくらいに。
気がつくとしばらく生理が来ておらず、だるい状態が続いていたゆりな。ある日、妊娠検査薬を使ってみたところ、結果は陽性。既婚者の男性、警察官、ゆりなにつきまとっていた若い男性の3人が思い浮かびますが、誰が父親かはわかりません。ゆりなは、自分が流されるままに誰とでも寝た「バチ」が当たったと感じます。妊娠したことをふみに伝えたいところですが、ふみに見捨てられてしまったら、と思いとどまってしまい、自分がどうするべきかも決められずにいました。
一方のふみは、家賃や光熱費を払わないゆりなを追い出すことなく、なぜか彼女との生活を続けています。男性が途切れることのないゆりなと違って、男っ気がなく、さっぱりした性格の持ち主のふみ。物語が進むにつれ、ふみがなぜゆりなの同居を受け入れたのか、ふみの心の奥底にある気持ちや抱えているものも浮かび上がってきます。
ゆりなとふみの間柄は、親友というわけではありません。でも、どこか自分に自信が持てないところは似ているようで、それぞれにだめな自分を抱えていて不器用だからこそ、二人の関係性に他にはない居心地の良さを感じているのかもしれません。
誰しもが多かれ少なかれ、理想と現実のギャップに苦しんだり、自分を変えられずに悩んでいたり、前向きに頑張れなかったりすると思うのですが、この物語はそんな人にそっと寄り添ってくれ、温もりを与えてくれます。二人はどのような生き方を選ぶのか。全3巻と手頃な長さで、秋の夜長に読むのにおすすめの作品です。
『ふたりぐらし』
丘邑やち代 講談社
親友でも恋人でもない。だけど私たち、ずっと一緒に暮らしていけたらって思ってた──。 男にもお金にもだらしないゆりなと、ボロボロの格好で漫画家としての芽も出ないふみ。正反対のダメさを持つ2人は、だからこそ一緒に居られて、不思議と波長もあう、唯一の友達。気楽な女2人の暮らしを続けていたある日、ゆりなに妊娠が発覚して……? 不倫相手、セフレ、一度寝ただけのストーカーくん……本当のお父さんは誰なのか。ゆりなとふみの暮らしの向かう先は……? 社会に馴染めない2人がそっと寄り添うような、女同士の脆い“ふたりぐらし”のお話。
Comment