少女マンガ全開なピンクの表紙からは、こんな中身を予想できませんでした。伝統的に見えて、革新的で社会派! 『無敵の未来大作戦』(黒崎冬子)は、レトロで懐かしい少女マンガ的な画風と現代の社会的問題を扱ったテーマ、そして息もつかせぬギャグの応酬が融合した予想外すぎる内容の作品です。

『無敵の未来大作戦』1 (ビームコミックス)

舞台は、現在の日本によく似たとある時代のとある国。厚生大臣が少子化対策として「全部お金で解決できるんじゃないかね!?」とぶち上げたのが、結婚のための新制度「聖婚」!

「聖婚」とは、選ばれし聖人(お金持ち)が一夫多妻・一妻多夫を作れるというシステムで、「聖人」の資格を有する者は複数の配偶者と婚姻関係を結べる。そして、「聖人」とは、一定以上の資産を持ち、配偶者とその子どもらに不自由をさせないと認められた者……要はお金持ちです

 

母ひとり子ひとりの極貧生活を送る高校生の晶 瑛子(あきら・えいこ)。父は「ハワイに泳いで行きたい」という突拍子もない理由で、消息を絶ってしまった。高校に通いつつ、母親とともに夜は内職をしています。

 

遅刻して登校すると、瑛子は、学園のプリンス・良々田 砕(いいだ・くだく)くんが「聖人」認定されたことを知ります。

 

良々田家は戦国時代から続く名家。その嫡男の良々田くんが「聖人」の資格が与えられるのは当然のこと。「聖人」と結婚する人は、マンションや一生お金に困らない暮らしが待っている!
極貧生活を送る瑛子は母のため未来のため、良々田くんと「聖婚」したい、と思いはじめます。

良々田くんは「聖人」宣言をした途端、安定を求める女子たちにもみくちゃにされ、完全にロックオン状態。「責任を持ってのぞむ」と言ったものの、幼なじみの一 二三四(はじめ ふみよ)くんにだけは、本音を漏らします。そして、この二人はなんだかただならぬ雰囲気。

 

良々田くんと「聖婚」して「無敵の未来」を手に入れるため、瑛子が奮闘するというのがストーリーの主軸。加えて、クラスメイトたちのエピソードが挟み込まれていきます。

まず、学年トップ、知性と教養を備えた女子で、良々田くんとの「聖婚」をめぐり瑛子と争う、離岸 澪(りがん・みお)。「聖婚」をしたい理由を論理的にプレゼンする様子が「かわいくない」と男子に言われると⋯⋯ 。

 

次に、陸上競技部主将の凛々しいボーイッシュ女子・謝名 伊予(じゃな・いよ)と、ぽっちゃり女子・慈童 デイジー(じどう・でいじー)の友情。デイジーが男子に「最低限きれいでいることは女子のマナー」と言われていると伊予がズバズバ言い返し、撃退する。伊予がデイジーを守るのにはある理由がありました。

 

そして、二人目の「聖人」で、よりすぐりの聖婚相手を見つけてきてくれたパパを持つ令嬢・花様 ぐれいす(かよう・ぐれいす)。「正しい道を行けるように」と願いを込めて素晴らしいものをくれる人には、笑顔で返すのが自分のすべきことだと思って生きてきました。

 

「聖婚」する予定だった彼女の心を揺るがせたのは、学校一のワルと呼ばれる禅禍 百(ぜんか・ひゃく)くん。周りから不良だと誤解され、怖がられている彼と接することで、自分で人生を選び取っていく強さを知ります。

最後に、胸が大きいことで男性からしょっちゅう注目され続けている青伊 藍(あおい・あい)。胸のことを一方的に評価されても、笑ってその場をやり過ごすことしかできない。でも、良々田くんにあることを言われ、心境の変化が訪れます。

 

彼女たちの共通点がわかりますか? みんな女性ならではの苦しみ・生きにくさを抱えているのです。彼女たちは、「聖婚」をきっかけに瑛子や良々田くんと知り合うことでそれぞれ「無敵の未来」を見つけていきます。


作者の黒崎冬子さんはTwitterで語っています。

無敵の未来大作戦は、私が小さい頃、学生時代、若い時に、
恋愛、結婚、出産は女性の最大の喜びで幸せなんだよ
趣味や仕事や生きがいよりも異性愛が一番尊いんだよ
という洗脳みたいな干渉を浴び続けて描きたくなって書いた漫画です。

 

 

内容だけ書くと、シリアスな作品のように見えますが、基本的にはページの隅々まで予想を超えたギャグが描き込まれ、笑ったり、ときに戸惑うこともある小ネタの宝庫! そして、登場人物の言動がみんなシュールでクセがありすぎ! でも、人間一人一人の個性を強烈にデフォルメするとこうなるのかもしれないな⋯⋯ なんて思ったりします。

そして、「聖婚」はストーリーの前提となる設定でありながらも、賞賛一辺倒では描かれていないのがポイント。

作中のメディアでは、「聖婚」により、経済的にゆとりを得た女性たちがシッターを雇い、多様な生き方を選べるようになったと報じられる一方、「不誠実だ」「複数の人と結婚するなんてキモチワルイ」「お金ありきの関係でしょう? なんだかねえ 打算的すぎるというか……」という批判的な声も取り上げられ、「賛否両論」とされているのです。

「聖婚」ってそんなに政府が言うほど素晴らしい?
という問いがストーリーの中でずっと投げかけ続けられてるんです。

クラスメイトたちがそれぞれ「無敵の未来」を見つけて邁進していく中、瑛子と良々田くんはどんな「無敵の未来」を見つけるのでしょうか。やっぱり二人は「聖婚」する? それとも? 

全3巻ですが、3巻の最終ページまでシュールなギャグと予想外の展開にあふれています! まずは1話を読んでみてくださいね。


【漫画】『無敵の未来大作戦』第1話を試し読み!
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『無敵の未来大作戦』
著 黒崎 冬子

「聖婚したい人、だ〜れだっ!!」
聖婚——。それは、少子化対策のための、新しい結婚の形。
選ばれし聖人(※超お金持ち)が一妻多夫、一夫多妻の家庭を作れる新システム! 瑛子(えいこ)は生活のため、学園のプリンス良々田(いいだ)くんに興味を持ちはじめるが⋯⋯? コマのすべてが爆笑御礼!! 聖婚目指して人生模索の学園ラブコメ!

作者プロフィール
黒崎 冬子

2014年ごろから、コミティアにて創作漫画を発表していた。2019年10月より初連載作品『無敵の未来大作戦』を「月刊コミックビーム」(KADOKAWA)で2021年8月号まで連載していた。現在は『平家物語夜異聞(へいけものがたりよるくんのはなし)』を同誌で連載している。Twitterアカウント:@natsukosama

 

(C)黒崎冬子/KADOKAWA
構成/大槻由実子