田中みな実さんが映画初主演することで話題となっている映画「ずっと独身でいるつもり?」(2021年11月19日公開)。その元となった同名の原作は、おかざき真里さん作画、雨宮まみさん原案のコミックで、独身女性が日頃あえて大っぴらに語ることはない心の内を丁寧に描き出しているオムニバスストーリーです。

36歳独身、フリーランスライターのまみは、大おばあちゃんの葬儀に出るため帰省することを母親に電話で連絡しています。

電話の向こうで、母親が以前、まみの部屋に来た時のことを話します。

独身って「かわいそう」?田中みな実さんが映画初主演で話題の原作『ずっと独身でいるつもり?』_img1

(C)おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

やりたかったライターの仕事にこぎつけ、ようやく認められるようになって、そのお金で自分好みのインテリアの部屋にしたり、楽しんだりがようやく「できる」ようになったのに、「かわいそう」と言われてしまうのか。

咲いてみたら「かわいそう」と言われる 花

と、まみは自分のことを表現します。

葬儀に向かうため新幹線で地元に帰ると、同級生がみんな親族の中で肩書きを持っていて、しっかりしている。自分だけ子どもの頃と何も変わっていないな、という思いを抱きます。

結婚はまだ? と聞かれ、相変わらず一人で予定もないですよ、と明るく答えると、一瞬間が空き、親戚の人たちが言葉を選んで励ましてくれるような雰囲気になってしまう。

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「まみちゃんならいつでもできるわよ」
「今どきはみんな晩婚なのよね」
「稼いでるんでしょ かっこいいな」

親戚たちのとってつけたような「褒め言葉」に笑顔で答えながらも、まみは「気を遣わせちゃってごめんなさい」と心の中でつぶやく。

この場の空気を壊したのは、遅れてハーレーのバイクで到着した士郎叔父さんでした。バツイチ、独身。へらへらしていて、忘れ物もしている。

まみは「わたしよりちゃんとしてない人が」と思うのでした。そして、葬儀の後、士郎叔父さんがまみに言った言葉で、彼女は自分が過去に描いた「将来の夢」が叶っていることに気がつくのです。

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二話目に登場するのは、彼と別れてつらくてしかたない由紀乃(ゆきの)。まみの同級生。そんなに好きじゃなかった彼だけど、「この年の失恋は命にかかわる」と言えるくらい、死にたい気持ちになってしまっている。もう「ひとり」でいたくない。もう誰でもいいの…… と思っていたところに、大学時代の元カレと再会。
これは、女性誌で見た「元カレがカッコよくなって帰ってきた」というやつでは? 復活愛を狙って、由紀乃は彼と食事に行くことにする。

何か楽しい。ありかも? と思うのですが、食事の場であることに気づいてしまう由紀乃。

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三話目に登場するのは、やりたかった仕事に就くことができ、会うと仕事の話ばかりしているシミズ。これまたまみの同級生。同窓会でまみと一緒にいると、「2人ともまだ独身なの?」という声を、用意していたアルカイックスマイルで受け流す。

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不倫はやめなよ? と忠告する同級生に、シミズが内心つぶやく言葉はまさに、独身女性が日頃から肌で感じていること。

こういうの
微妙な年を過ぎると
オヤジは黙って
同性の方が言い出すんだよなー

でも、同級生に対して敵対心や嫌悪感は抱いてなく、ただただ「原因究明はしなくていいよ」とだけ思うのでした。

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最後のエピソードは、「結婚しよっか?」と軽くプロポーズをされ、急に明るい未来のビジョンが見えた気がして、彼の実家でご両親と会うまみ。

「まみさんは何の仕事をしてるの?」と彼の母親に聞かれ、「ライターです」「はい コラムを書いたりインタビューをしたり」と、自分の仕事を伝えると、彼の母親が渋い表情になり、「それだけ?」と言うシーン。

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……ああ
ライターで女でって
隙間っぽい……
アルバイトみたいに見られるんだよなあ

ご飯をたべているはずなのに、「ジャリッ」と、砂を噛んだような気がしたまみ。
私が結婚して子どもを産めば、私や彼だけでなく、彼のご両親も幸せになる。みんないい人。誰も悪くない。だから、これはみんながしあわせになる良い道。

プロポーズをされた時に見えた「明るい未来」は南国のイメージで表現されていました。そこに向かってまみは順調に車を走らせている、というイメージカットがエピソードの合間に挟まれています。でも、走った先にまみが遭遇したものは何だったのかーー。


各話の最後は、いつもぽっと花が咲くような、小さな小さなカタルシスが生まれて終わります。それぞれの結論を出した3人は、自分たちの「幸せ」を具体的な言葉にして宣言します。

本作には、雨宮まみさんが書いた原案となる同名のエッセイがあります。2016年に40歳という若さで亡くなった雨宮まみさんと、おかざき真里さんとのインタビューが巻末に掲載されていて、なぜ雨宮まみさんが原案のエッセイを書いたのか、おかざき真里さんがコミックにしたのかが語られています。その中で雨宮さんはこう言っているのです。

私、独身だからといって、既婚者を敵視したり、ひがんで笑いのネタにするといった方向に幸せはない気がして。

雨宮さんは「女を分断しない」人だ、とおかざきさんは言っています。

本編と巻末のインタビューを読んでみて、登場人物の3人も雨宮さんも、結婚をすすめる他人の存在は認めているけれど、単に自分の人生には結婚はいらないと思っているだけ、と思いました。他人と自分を正確に切り分けている。相手に生き方の押しつけをされたとしても、こちらからの押しつけはしない。

ほんとは結婚したいんでしょ? したほうがいいよ? とざっくりとすすめてくる周囲に対し、ただ私は、社会というサバンナで、自分の力で幸せを捕まえに行く人生を過ごしていたいだけなのです、時に割に合わなくても、無駄でもいいんです、という独身女性たちの表明なのです。

女性をステイタスで切り分けてゆくと分断しかない。でも、ステイタスではなく、他人と自分というものを丁寧に切り分けて考えることは、分断ではなく、自分自身が息をしやすくするための必要な手段なんだなと思わせてくれる作品です。


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『ずっと独身でいるつもり?』
おかざき 真里(作画) (著), 雨宮 まみ(原案)

やりがいのある仕事と好きなものに囲まれていても、結婚してなければ「かわいそう」? 親から「かわいそう」と言われてしまったまみ。「ひとり」が怖くて元カレとの再会に心が揺さぶられる由紀乃。仕事に熱中しておざなりになっているシミズ。36歳独身の3人が、日常を通じて「独身である」自分自身の心のうちを語るオムニバス。

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作者プロフィール
おかざき真里

博報堂在職中の1994年に『ぶ〜け』でデビューする。 2000年に博報堂を退社後に、広告代理店を舞台にした『サプリ』はドラマ化もされ、大ヒット。 代表作として『渋谷区円山町』、『&(アンド)』などがある。


構成/大槻由実子