ここ数年ですっかりメジャーとなった「推し」「推し活」というワード。カジュアルでどこでも軽く使える雰囲気があります。でも、昭和に青春を過ごした世代だと「推し活」の代わりについ口から出てしまう言葉は、「おっかけ」「オタク」ではないでしょうか。

『沼の中で不惑を迎えます。輝くな!アラフォーおっかけレズビアン!』は、東方神起のチャンミンなどの「おっかけ」をしている竹内佐千子さんが、「アラフォーからの推し活」の現実と心得を説くコミックエッセイです。「全アラフォー必読の書」というキャッチコピー通り、昭和〜平成ネタが満載で、90年代に青春を過ごした世代の心に馴染むこと間違いなしの一冊となっています。

今回は、アラフォーの推し活について語っている第5話の「蘇らない、オタク」にフォーカスを当ててみました。

 

そもそも、「推し活」をする人間=「おっかけオタク」には数種類のタイプがあるのだと、竹内さんは第4話「あつまれ!農民の沼」で語っています。

・狩猟民族タイプ
・農民タイプ
・触法スレスレタイプ

「アラフォーなんて基本元気ないのがデフォルト」昭和生まれ平成育ちに響く名言が続々!『沼の中で不惑を迎えます。輝くな!アラフォーおっかけレズビアン!』_img1

 

狩猟民族タイプは、「推し活」に妥協なく・厳しく・激しくアクティブな人々。具体的な行動だと、ビルに広告を出したり、「推し」の名前で寄付活動したり。要は、海原雄山(美味しんぼ)。横暴に見えるが常に最高のものを追い求め、献身的な面もある。

農民タイプは、「推し」の成長をただ見届けたい、畑を耕すように育てたい人々。「ワシが育てたーー!!」が喜び。みんな(おっかけオタク)で耕し、水路を引いて収穫物(推し)を分け合うのが効率がいい! コンサートはいわば収穫祭。竹内さんはこのタイプです。

触法スレスレタイプは、その名の通り、アイドルの家や携帯番号をつきとめたり法に触れる行為をして、推し本人に迷惑をかけてしまう人々。

他2タイプが激しいのに対し、農民タイプは、穏やかで健康的に見えますがときに「重大な過ち」を犯してしまうことがあるのだそうです。

東日本大震災を東京で経験した竹内さんは、当時「被災していないんだから弱音を吐いてはいけない」という空気に、かなり精神を疲弊させていました。
そこから逃れるように、おっかけ行為が加速。
推しを見ていると恐怖を感じることなく、つらいことも忘れられ元気ハツラツになれたのでした。

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推しを見れば、とにかく元気になれる。栄養ドリンクをガバガバ飲むように同じ公演を20回以上観たり、1週間以上遠征したり、プレゼントもしまくり、ファンレターも書きまくった。日々休まず「推し活」をした結果、竹内さんはどうなっていったのか。

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「キャパオーバー」しました。

竹内さんは、ある時期から風邪が1ヶ月以上治らない、突然歯に激痛が走る、など次々と体調不良に見舞われるようになります。肉体的な疲労を自覚せず、推し活に突っ走ってしまったのです。

そして、体調が落ち着いたと思ったら、今度はメンタルに変調が現れました。

「毎日東京タワーのてっぺんに立たされた」感じに陥り、動悸や震え、しびれ。心臓発作か!?と、救急車を呼んで病院で調べてもらっても「異常なし」。

なんと、竹内さんは「パニック発作」を起こしていたのです。その後、精神科で診断を受け、現在は落ち着いているのですが、この体験から悟ったのは、

要はおっかけオタクは
命を削って 活動をしてしまうことがあるということなんだ……

ということ。

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もっと具体的に言うと、

離婚とか
 失業とか
  人間関係とか

人生のダメージを 推しで修復しようとして
健康を失うことがある

ということなのです。

竹内さんは震災のショックを修復しようとして「推し活」に突っ走っていったのですが、なんだかこの「傷ついているのにはりきっちゃう・がんばっちゃう感じ」って、令和のアラフォー世代にはありがちな行動パターンじゃないでしょうか?

自分の身体を軽んじているのに気づけず、がんばりすぎて最後には倒れてしまう。
それが美談になった時代、昭和。私たち、きっと、昭和が抜けきれていないんですよ⋯⋯。

「推し活」は精神を元気にするけれど、肉体には働きかけない。むしろ一生懸命やればやるほど体力が奪われ、疲れてあちこち不調が出始める。「頑張ることはいいことだ」なマインドが抜けきれないのに、体力は精神についていけなくなっている現実。令和のアラフォーがハマりがちなそんな「沼」を教えてくれる第5話です。


他のエピソードでも、昭和〜平成に青春を過ごしたアラフォーにしっくり来る名言(迷言?)が多数あります。

推しのチャンミンが結婚したニュースに動揺し、「もう誰かの夫になった人を貼っておくのはどうなのか」と彼のポスターを剥がすべきか迷う竹内さんに、担当Hさんがズバッと回答。

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「人の夫ですけど 元々は知らないおばさんの息子だったわけだし!」

た⋯⋯、確かに! これはアイドルが同世代ではなく、息子世代に近くなるアラフォーならではの感覚。「おばさん」目線で、アイドル(息子・娘)の成長を見守り、愛でるというおっかけマインドはあるあるなので、その視点を変えると確かにこうなる⋯⋯かな。

次に、おっかけ対象は男性だけど、恋愛対象は女性である竹内さんが、世間が抱くレズビアン=「恋愛に積極的で、パートナーと結婚したいと思っていて、美人で強い女」というようなイメージについて、あの名曲で訴えるシーン。

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「なんでもないようなレズがいるのも知ってと願う」

と、虎舞竜だ⋯⋯! ザ・平成ネタ。アラフォーなら自然と脳内再生してしまいますよね? 久しぶりに名曲『ロード』聴いてみようかな、と思ってしまいました。

最後に、一番の名言をどうぞ。
もう、うなずくしかありません。

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「あとアラフォー『元気出ない』とかよく言うけどアラフォーなんて基本元気ないのがデフォルトなんだからな‼︎」

そ、そうだった⋯⋯! 追加の「もう20代じゃねえぞ‼︎」という言葉もグサッと心を直撃してきます。なんで令和のアラフォーはがんばりすぎちゃうの? その理由は、90年代に流行ったアレにあったのです。「アレ」とは? 絶対にみなさん知ってるはず。是非、本編を読んで確かめてみてくださいね。


「推し活」以外にも、実家暮らしのアラフォーの気がかりや、アンチエイジングへの違和感、やたら気になってくる老後の問題など、令和に生きるアラフォーにとってはどれも切実なあれこれについて語られます。
染み付いた昭和のムードはどうしたって捨てきれないし、体力はどんどん衰えていく一方でも、マインドだけでもアップデートしていきたいものだ、としみじみと感じいる一冊なのでした。


【漫画】『沼の中で不惑を迎えます。輝くな!アラフォーおっかけレズビアン!』第5話を試し読み!
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『沼の中で不惑を迎えます。輝くな!アラフォーおっかけレズビアン!』
竹内佐千子 (著)

人生の半分以上、沼にはまり続けて20年。アラフォー、独身、実家暮らしの漫画家・竹内佐千子が輝かない日常をつづるコミックエッセイ。不惑を迎えるはずの身にふりかかる、推しの結婚、お金や健康問題、親の介護や自身の老後への不安。全アラフォー必読の書!

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作者プロフィール
竹内佐千子

漫画家。おっかけ対象は男性、恋愛対象は女性のレズビアン。自身の恋愛体験を描いたコミックエッセイをはじめ、おっかけ、腐女子などをテーマにしたコミックエッセイを描き続け、最近はストーリー漫画も描く。『赤ちゃん本部長』(講談社)、『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』(ぶんか社)などが代表作。


(C)竹内佐千子/集英社
構成/大槻由実子