誰もが一度は経験したことのある片思い。それぞれにいろんな思い出があるのではないでしょうか。中にはなかなか忘れられない片思いもあるものです。女性マンガアプリPalcyオリジナル作品『真夜中にコーヒー』は、切ない片思いをテーマにした作品です。

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『真夜中にコーヒー』(1) (Kissコミックス)

片思いってどうしたら終わらせることができるでしょうか。相手にその気持ちを伝えたとして、相手に受け入れられたら幸せなことですし、振られてしまったらそこで一応の区切りが付くことになるかもしれません(そのまま気持ちを引きずってしまうこともありますが)。でも、もし告白しなかったとしたら、その片思いはずっと続くことになるのでしょうか? 片思いの行く末や落としどころってどこにあるのでしょうか?

 

『真夜中にコーヒー』の主人公は、大学生になったばかりの浪川かすみ。高校時代に好きだった上杉先輩を忘れられずにいます。上杉先輩には彼女がいましたが、彼女がいて凹むとか、奪ってやりたいなどといった気持ちはありませんでした。自分がどうかではなく、上杉先輩が幸せならいい、と思っていたからです。

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ある日、大学の友達と新宿で飲んでいたところ、終電の時間が近づいてきました。友達と別れて一足先に駅に向かったものの、終電に乗りそこねてしまいました。再び友達と合流することも考えましたが、まだ知り合ったばかりなので、「朝まで一緒にいてください」と連絡できずにいたかすみ。そんな中、突然見知らぬ中年男性に声をかけられ、腕を引っ張って連れて行かれそうになります。そこに若い男性が声をかけてくれ、かすみは一難を逃れることができました。

彼にお礼を言ったかすみは、「この辺で始発までいられそうなお店知りませんか!?」と訪ねます。すると、彼は自分がアルバイトをしている喫茶店が朝までやっていることを教えてくれました。店に行く途中で狭い道に入ることになるため、彼が一緒に行くことを申し出ますが、「わたしなんか大丈夫ですよ」と断るかすみ。さっき、おじさんに絡まれていたというのに。

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教えてもらった喫茶店の名前は、「カフェ・オアシス」。扉を開けるとレトロな雰囲気のカフェで、カウンターの中には老紳士がひとり。かすみはカウンターに座り、温かいコーヒーを飲んでほっと一息つくことができました。そこに、さきほどかすみを助けてくれた男性が戻ってきました。名前は宮古といい、かすみと同じ大学の上級生であることがわかりました。かすみはマスターに、さっき絡まれていたところを宮古に助けてもらったことを伝え、終電に乗り遅れてしまったものの、付き合いの浅い友達に「わたしなんかに付き合わせるの申し訳なくて、若い女性ったってわたしならまあ大丈夫かな」と漏らします。

その後、カウンターで眠ってしまったかすみですが、カウンター内にいる宮古が誰かと電話をしているのに気づきます。電話を切った後の宮古は笑みを浮かべており、それを見たかすみは、「彼女さんですか?」とすかさずツッコミを入れます。宮古は彼女でも狙っている人でもないと否定しますが、かすみに「応援してる人?」と聞かれます。かすみ曰く、「恋人になりたいとかじゃなくて見れるだけで幸せ 話せたら最高! みたいな」とのこと。その流れで上杉先輩のことを話したところ、意外にも宮古から、「――いや なんとなくわかります」との反応が。

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そこでかすみは、片思いをしていた上杉先輩に彼女がいても見てるこっちまで幸せになるといいつつも、実は目の当たりにした時に突き放されたような気持ちになった時のことを話してみます。ここでの宮古の返事は「さあ」という、そっけないもの。仲間発見と思いきや、すっと距離をとられてしまった感じですが、こうしてかすみは宮古と知り合うことになりました。

実は宮古もかすみと同じように、ある女性に対して叶わぬ思いを抱き続けていることが発覚します。“片思い”仲間の二人が深夜の喫茶店で出会い、誰にも言えない思いを吐露するようになっていきます。

この物語に惹かれるポイントの一つに、夜が明けるのを待つ、深夜の喫茶店というシチュエーションがあります(今はコロナの影響で終電を逃すまで飲んで、始発を待つこともないだけに、余計に)。深夜だからこそ、ぽろっとこぼしてしまうことがあるものです。ましてや片思いの状態だったら、そりゃいろいろ考えてしまいますよね……。

かすみは自己肯定感が低いところがあり、「私なんか」とつい自分を卑下しがちです。だから、上杉先輩に対して何のアクションも取ることなく、「好きな人が幸せならいいの」と自分に言い聞かせているのかもしれません。そんなかすみが、宮古やさまざまな人との関わりを通して、自分の片思いに向き合い、自分が目を背けていた部分を直視し、自分の本当の気持ちに気付いていくようになります。その心情がとても丁寧に描かれていて、かつリアルなので、読んでいると心に染み入ったり、突き刺さったり……。片思いって楽しかった思い出というよりは、切ないものや、後悔の念や、自分の未熟さを感じるものの方が多いような気がします。この物語を読んで、自分の片思いや当時の心境に思いを馳せてみるのも一興です。
 

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『真夜中にコーヒー』
さわの将 講談社

高校時代から続く、上杉先輩への密かな片思い。相手に彼女ができたって、彼が幸せならそれで満足、なはずだった――。 大学に入学し、まだ先輩への想いは途切れないけれど、でも、時々突き放されたような気持ちになるのは何故だろう。 そんなある日、カスミはちょっと感じの悪い喫茶店の店員、宮古に会う。彼はカスミと同じ大学の上級生で、どうやらカスミと同じように、ある女性に対して叶わぬ思いをずっと抱いているようで……。 「好きってだけで、十分」。他人からは理解されなかったお互いの「片思い」を分かち合って、共感していく二人。でも、それぞれが抱く思いの、微妙な違いに気づく時が来て――。