誰かが育てられなかった子どもを代わりに18歳まで育てる。それが児童養護施設の仕事です。施設で働く職員には自分自身の子どもがいる人も。
人の倍、子育てをしている職員の方々の、子どもたちに対する愛と葛藤はどれほどの大きさなのでしょうか。
『わたしのカッコウたち―児童養護施設のふつう―』は、児童養護施設で暮らす子どもたちと職員の日常を描いています。

 

赤の他人の慈母となる その愛に憧れた

一枚の写真を見たのをきっかけに、児童養護施設の職員になった岡本亜希。
「岡本」の名字から「おかぽん先生」と、施設の子どもたちから呼ばれています。

 

社会福祉法人養護施設とは、ネグレクト、虐待、児童本人の疾患での養育困難な子などを原則18歳まで養育する場所で、彼女いわく「体感離職率98%」。

亜希の担当する児童の一人で「難敵」なのが、小学2年生の若槻海(わかつき かい)。4日連続でおもらしをしてしまう彼は、精神が摩耗した母親からのDVを受けていて、自閉症を持っています。

 

おねしょをしたことを怒られると思い、「ぶつ? ごはんもらえない? お外に出される?」「ごめんなさいごめんなさいぼくいい子じゃないです」と布団からなかなか出ようとしない海に「怒らないよ」「出ちゃったもんはしかたない!」と亜希は答える。

 

海くんについての報告記録を「監視みたいでいやだなあ」と渋々書いていると、「どうされるんですか」と言ってくる同僚の職員。彼は、DV被害者で自閉症の海くんは「普通じゃない」と言い切りました。その言葉に、亜希は思わず顔を歪めてしまうのでした。

それから、学校に登校した子どもたちの部屋を掃除しに行くと、

 

学校に行ったはずの海がなぜかいる!

慌てていると、海の母親が面談に来てしまいました。母親の姿を見て大喜びでかけ寄る海。
嬉しそうな顔を一切見せず、「あなた何してるの? 学校は?」と海を問いただそうとする母親。亜希が一旦止めようとすると、

 

「もおやだあ」と母親は人目も気にせず大声で泣き始めるのでした。泣いている母親を見て、一緒に泣き出す海くん。

しばらく経ち、泣き止み「なんでこんなことになっちゃったんでしょう」と話し出す母親に、亜希はきっぱりと言います。

 

若槻海は心身ともに すこやかです
障害というものを もっていようと

ですが、母親は「普通が良かった」と答えます。

産まれてから、障害が判明し、夫と離婚。シングルマザーとして働きつつ、海くんを必死に育てていた彼女の心が限界を超えて、はじめて海くんに暴力をふるってしまった時。そして、虐待の痕を見た小児科から通報され、息子と引き離された日までの経緯が描かれます。

亜希たち職員のほとんどは、子どもたちをバックグラウンドだけで決めつけず、彼らの「花開く方向」を見出そうとしています。

そして、養護施設で他人の子どもの面倒を見る仕事をしている亜希ですが、自分自身にも夫と2人の子どもがいます。自分の子どもと、施設の子ども、2つの場所で「慈母」になっている彼女の葛藤が、飾り気なしに描かれます。

自宅のドアを閉め、自分の子どもが「おかあさあん」と泣く声を聞きながら、グッと気持ちをこらえて「今日は休めない 今日は我慢して」と仕事に向かう朝の場面。

うちの子が一番!
大声で言ってあげたいけどそれは傲慢なのだ 許されない

 

施設に到着すると、仕事モードに切り替わり、目の前の子どもたちの話を聞き、お世話をする。でも、どこかで自分の娘のことをふと思い出しているのです。

また、施設の子どもたちは「おかぽん先生」を、自分の本当の親ではないとちゃんとわかっている。「おかぽん先生 エプロンとっちゃうの?」と不安げに聞いてくる女の子に、亜希は心がゆらいでしまいます。

エプロンとったおかぽん先生は
だって…… ほかのおうちのひとだもん

 

自分自身の子どもと、職場の施設にいる子ども。どちらの訴えにもつい振り向いて、切なげな表情をする亜希を見ていると、ちくっと心が痛くなります。

亜希たち職員も、施設に子どもを託す「カッコウたち」も子どもたちも、全てが都合よく、わかりやすく明るく救われるわけではないのが、本作の「らしさ」。

施設で育った子どもたちが、越えなければいけない壁とはどんなものなのか、越えることができなかった子どもはどうなるのか、をシビアに描いているエピソードもあるのです。

第一話のラスト、子どもたちの泣き声を聴きながら、保護の必要な子どもが増え続けているのに保育士への相応の見返りがどんどん削られていく現状に、亜希はこう思います。

──この世界は──
──あまりにもグロテスクだ

混沌の中で生きようとしている子どもたちと、彼らが少しでも幸せな道を歩めるようサポートに必死になる職員たち。命と命がぶつかり合う児童養護施設での仕事って辛すぎるんじゃないだろうか、と読んでいて感じる場面も多々あります。

けれど、全エピソードを読み終えて、再び冒頭の「赤の他人の慈母」を見ると、その表情が優しさだけでなく、覚悟を持った強さもあるのに気づくのです。そして、保育士の仕事の価値と貢献がもっと認められ、相応の見返りを受け取れる社会になればいいと感じるのです。


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『わたしのカッコウたち―児童養護施設のふつう―』
大須賀こすも (著)

貧困、発達障害、虐待、ネグレクトなど、それぞれに事情を抱えて、親と暮らせなくなった子どもたちと、児童養護施設の職員たちは「家族」になれるのか。清濁併せ呑むリアルな現実をつづるヒューマンストーリー。

作者プロフィール
大須賀こすも

東京生まれ。「月刊コミック@バンチ」にて『図書館の騎士団』で連載デビュー。
現在、バンチとまんが王国の合同レーベル「ウツツ」にて『わたしのカッコウたち』を不定期連載中。
Twitterアカウント:@cosmo_o5102


構成/大槻由実子