日本では知事など自治体の首長に対して、地域の魅力を他にアピールする行為を強く求める傾向が顕著です。自治体の魅力をアピールする、いわゆる宣伝マンとしての振る舞いは、知事の仕事のひとつですが、もっとも重要な職務とは言えません。

 

例えば、連邦制を採用しているドイツや米国、あるいは自治体の権限が強いスペインなどにあてはめれば、地方の行政組織は「州政府」「地方政府」などと呼ばれます。日本における「県」という存在も、自治権がある以上、(程度の違いこそありますが)国家権力に準じる存在であり、税金を徴収する、予算を策定する、条例を制定する、地域のインフラを整備する、治安を維持する、教育行政を実施する、各種の社会保障を実施するなど、多くの重要な業務があるはずです。

 

日本という国のトップは首相ですが、日本の魅力をアピールすることが首相の最優先事項でしょうか。安全保障や社会保障など、国のトップとしてやるべき仕事がたくさんあるはずですし、魅力をアピールするのはそうした職務を全うしてからだと考える人が多いと思います。加えて言うと、日本は中国や北朝鮮とは違い民主国家ですから、権力を持つ人が民間企業の活動に介入することは、極めて慎重であるべきです。

つまり、自治体トップは首相と同様、立派な権力者ですから、本来、果たすべき職務というものがあり、かつ言動もそれにふさわしいものが求められます。

ネットでは、山本知事の言動に対して「器が小さい」といった批判が数多く寄せられていますが、生活感覚でとらえれば、たしかに「器が小さい」ということになるのかもしれません。しかし政治的に見た場合、「権力者であるという自覚が薄い」と言い換えることもできますし、それは地方自治があまり機能していないことの裏返しでもあります。

日本では地方自治が機能しておらず、自治体は政府の言いなりになっているとの指摘が以前から存在します。

これは予算や法律などにおいて政府が強い権限を持ち過ぎていることが原因ですが、自治体トップに対して、権力者としての本来の職務ではなく、単なる地元の顔として、ご当地アピールなどの役割を安易に求めてしまう私たち有権者の意識も影響している可能性があります。


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