「スピリチュアルペイン」を和らげるカギは「話すこと」

死への恐怖、生きる希望の喪失……。緩和ケア医が向き合う「スピリチュアルペイン」とは_img0
 

それでは一体どうしたらよいのでしょうか。

 

もちろん最近では、臨床宗教師など、一般的な医療で手が届きにくい場所をカバーするような職種も生まれてきています。私もチャプレン(病院など教会の外で働く聖職者)がいる病院で働いたことがありますが、確かにそのような患者さんの苦悩に援助を提供していました。

自分がこのような苦悩を抱えた時はどうしたら良いのでしょうか。

先の論文は、あくまで終末期のがんの患者さんを中心としたものですが、それに限らず私たちは、人生における重大な出来事や病、心身のトラブルを抱えた時に同じように存在に関するつらさを抱える可能性があると考えられます。

一つの解決策としては、忌憚(きたん)なく話せる場を確保することです。私たちは対話を通して自分時とって真に大切なものを見いだしたりすることがあります。

対話が中断されてしまうと、深いところまでたどり着けません。やりとりを通して次第にスピリチュアルペインを緩和する何かが浮き彫りになることがあるのです。

緩和ケア医の岡本拓也先生は『わかりやすい構造構成理論―緩和ケアの本質を解く』で、スピリチュアルペインを緩和しうる方法の一つである傾聴を次のように説明しています。

「『志向相関的に聴くことを通して、傾聴する対象となる人が自分自身の存在と自分の人生を肯定できるような新しい物語(構造)の再構成ができるように援助する行為』と捉えることができる」
「『傾聴』という援助を通して、患者や家族の中から、彼/彼女のQOLを改善するような物語を引き出し紡ぎ出す」

私たちは話すことで、現在の苦悩(スピリチュアルペインを含む)を改善する新しい物語を自らの中から見つけられる可能性があるのです。

少しずつそのような対話を提供してくれる場も出てきています。「がんカフェ」や、私が行っている早期からの緩和ケア外来など、スピリチュアルな問題に関しても自由に話せる場が、探せば見つかるようになってきています。

生きるうえで避けられないスピリチュアルペイン。少しでも皆さんそれぞれの解が見つかることを願っています。
 

著者プロフィール
大津秀一(おおつ・しゅういち)さん

早期緩和ケア大津秀一クリニック院長。緩和医療医。茨城県出身。岐阜大学医学部卒業。2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。2010年6月から東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンターに所属し、緩和ケアセンター長を経て、2018年8月より現職。遠隔診療を導入した早期からの緩和ケア専業外来クリニックを日本で先駆けて設立・運営し、全国の患者さんに向けてオンラインでの緩和ケア相談をしている。全国相談可能な「どこでも緩和」ネットワークを運営。著書に25万部のベストセラー『死ぬときに後悔すること25』(新潮文庫)、『死ぬときに人はどうなる10の質問』(光文社文庫)、『死ぬときにはじめて気づく人生で大切なこと33』(幻冬舎)などがある。

死への恐怖、生きる希望の喪失……。緩和ケア医が向き合う「スピリチュアルペイン」とは_img1

『幸せに死ぬために 人生を豊かにする「早期緩和ケア」』
著者:大津秀一 講談社 968円(税込)

患者と家族の「生活の質」向上のために最善を尽くす、緩和ケア。3000人以上の患者と向き合ってきた著者が、緩和ケア医療の最前線から本当に伝えたいこととはーー? 人生100年時代を迎えた今、「緩和ケア=終末期」という誤解を解き、老いや病と共に自分らしく生きるための「早期緩和ケア」とは何かを詳しく知ることができる一冊です。


構成/金澤英恵

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