無邪気に過ごしていた小学生から中学生になる頃、異性への興味や性への好奇心が芽生えてきます。その変化に戸惑ったり、違和感を抱いたり、後ろめたさを感じたりと、いろんな感情がないまぜになる時期でもあります。現在、別冊少年マガジンで連載中の『おかえりアリス』は、思春期の複雑な内面に深く切り込む話題作です。

  『おかえりアリス(1)』(講談社コミックス)

『おかえりアリス』は、幼稚園からの幼馴染である3人の中学時代から始まります。ちょっと内気なメガネ少年の亀川洋平、スポーツが得意でスマートな室田慧、ポニーテール姿がかわいい三谷結衣。3人は同じ中学校に進学し、洋平は結衣にほのかな恋心を抱くようになります。

 

もう一人の幼馴染である慧は、スポーツをそつなくこなし、周囲の女子からも注目されている様子。結衣も慧のことが気なっているようです。

 

部活の後、一緒に帰る洋平と慧。他愛もない話をしていたところ、慧が「洋ちゃんて 好きな人いる?」と切り出します。結衣のことが気になっている洋平ですが、なんとかやり過ごすと、今度は慧に、「オナニーってしたことある?」と聞かれます。恥ずかしながら「ある…よ?」と答える洋平に、慧は「もっといいやり方があるよ」と微笑みます。その日の夜、ベッドに入った洋平は、結衣のことを思い浮かべながら慧のやり方でオナニーをしてしまいます。

 

慧のやり方でオナニーを覚えてからというもの、結衣への思いもどんどん膨らんでいくことに。そんなある日、放課後の学校で、結衣が慧に告白しているところに遭遇します。「どう思うか 確かめてもいい?」と、突然結衣にキスする慧。思わぬ展開に動揺する洋平と慧の目が合います。

 

その後、二人への気まずさや嫉妬心から距離を置くようになる洋平。慧に声をかけられても無視してしまいます。疎遠にしているうちに、慧が父の仕事の都合で北海道に転勤。洋平にとって苦々しい思い出になってしまいました。

 

時は流れて、洋平と結衣は同じ都立高校に進学します。入学式で結衣を見つめる洋平。あの出来事のあと、一言も言葉を交わせなくなっていたので、高校生になったら内気な自分から卒業して今度こそ結衣と付き合いたいという思いを胸に秘めます。そして、そんな洋平を見つめる一人の少女がいました。

 

実は、この“少女”は、北海道から戻ってきた慧でした。校内でもかなり目立つ美少女ぶりですが、新しいクラスでの自己紹介で、「僕は一応男ですが、男は もう降りました」と宣言。同じクラスになった洋平と結衣、他のクラスメイトは呆気にとられます。

中学時代に慧に片思いをしていた結衣は、女子生徒の姿になった慧に動揺。慧は洋平に「洋ちゃん 教えてあげるよ オナニーよりすごいこと」などと挑発的な言動を繰り返し、翻弄します。少女の姿になって舞い戻った慧は、この先、洋平や結衣の心をさらに揺さぶり、かき回していくことに。ミステリアスで危うい存在の慧を中心に、3人の歪な関係性はどうなっていくのか。慧が「男を降りた」理由の謎も相まって、1話目からぐいぐいと切り込んでくる作品です。

中でも一番気になるのが慧。女子生徒の制服を着ているからといって、女になりたいわけではありません。その曖昧な性の立場で、両性を巧みに使い分けて洋平と結衣の心と体に踏み込んでいきます。性への興味や抗えない快楽、異性への恋心って、人には知られたくないものであり、自分自身もどうしていいかわからず、時には目をそむけたくなるものです。でも、慧によって否応なく向き合う羽目になります。

この作品を読んでいると、自分が大人でもなく、子どもでもない時期の、性や恋愛への複雑な感情がまざまざと蘇ってきます。特に性的な部分では、性への好奇心や恐れ、オナニーの罪悪感、恋愛感情と性欲のあやふやな境界など、いくら考えても答えの出ないことばかり。

単行本にはあとがきマンガがついていて、作者の押見修造さんが、自分が「性欲を持った男」であることに辛さを感じている心情や、自身の性への目覚めについて綴っています。このあとがきが、作品を読み解く手がかりになります。なので、試し読みを読んだらぜひ単行本を読んでほしい! そして、あの逃げ出したくなるような思春期のぐちゃぐちゃした感情を追体験してほしい!!

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『おかえりアリス』
押見修造 講談社

「洋ちゃん、オナニーってしたことある?」ある日の部活帰り、慧ちゃんが言った。内気な中学生・洋平と、慧と結衣は幼稚園から一緒の幼馴染み。結衣を"女の子"として意識しだした洋平は、ある日、目を疑う光景に直面する。