人類の進化とともに文明が発達し、私たちは便利な暮らしを享受できるようになりました。その一方で、世界的な規模で経済格差が広がりつつあります。日本も例外ではなく、「一億総中流社会」と呼ばれた時代ははるか昔のことで、雇用の二極化や所得の減少が進み、ジェンダー格差も解消されず、さらには少子高齢化が加速度的に進み、今後の経済発展も見込めそうにありません。モーニングで連載中の『ダーウィンクラブ』は、格差社会を襲うクライムサスペンス。いまこの現実に起こってもおかしくないような陰謀がリアルに描かれています。

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『ダーウィンクラブ』(1) (モーニング KC)

『ダーウィンクラブ』の物語のはじまりは、3年前のこと。ビーグル犬の映像とともに、ある犯行予告が公開されました。現在、この世界では格差が広がっており、「世界で裕福な1%の人間が持つ富の合計は その他約70億人が持つ富の合計の2倍以上」と言われており、それを踏まえて、CEOと一般従業員の年収格差が千倍以上の世界的な企業100社にこの差を200倍未満にすること。協力の期限は3年で、それを過ぎても達成できない企業に報復をするというものでした。

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時はさかのぼって、2011年の東京。下町の自転車屋で、少年がスペースシャトルの打ち上げ配信に見入っていました。プリンを食べながら、父と一緒に配信を見ていたところ、店の前に人影が現れます。それに気づいた父は突然、少年に「かくれんぼするか」と言い出します。少年が押し入れに隠れたところ、激しい音が響き渡ります。押し入れの隙間から見えたのは、血が飛び散った雨合羽を身に着けた、一人の男性。スペースシャトルの打ち上げ配信を一瞥し、「ヒトの願望や努力のなんと儚いことよ」などとつぶやいていました。少年の目に焼き付けられる、その男性の顔。

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食べ終わったプリンの器と投げ出されたランドセルに気づいた男性は、子どもがいることに気づき、家の中を探し始めます。押入れの奥の布団に身を潜める少年。その男性が押入れに手を伸ばしたところ、少年は手首に刻まれた謎のマークを目撃します。

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玄関には撲殺された父。謎の男性の顔を見た少年は、「絶対に 忘れないぞ」と胸に誓います。それから十数年が経ち、その少年・石井大良(いしい・たいら)は刑事になっていました。彼が仕事の合間にスマートフォンで見ていたのは、民間宇宙企業・ワイルドスペース社がフロリダで行っていたロケット発射発表会。東京・台場と中継をつなぎ、1億ドルを払って宇宙旅行に参加する予定のIT系企業の社長が自己紹介をしていました。その映像を見ながら、画面に写っている人々の名前を次々と言い当てていく大良。彼には、一度見た人の顔と名前は忘れないという特殊能力があるのですが、後輩の宮本には、「それの正解わからないんで」と突っ込まれていました。

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ところが会見中に、フロリダの会場が銃撃され、台場の会場では爆発が起こります。それと同時に、ワイルドスペース社の宇宙船に描かれた会社ロゴに赤いペンキがかけられました。ワイルドスペース社は3年前に「CEOと一般従業員の年収格差を200倍未満にすること」と犯行声明で名指しされた企業の一つで、その報復措置と思われるものでした。突然の出来事に混乱する会見を見続けていた大良は、台場の会場の映像で一人の男性の姿に目を奪われます。それは、父を殺したと思われる男性だったからです。

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急いで台場の爆発現場に向かう大良と宮本。こうしていち警察官である大良は、世界を襲うテロと陰謀に関わっていくことになります。その手がかりとなるのが、父を殺したと思われる謎の男。その男は、巨大企業を脅迫する組織の一員と見られ、大良は人の顔を100%覚えられるという能力を活かしながら、彼に迫ろうとします。

 

謎の男の手首にあった、212という数字が刻まれたマークは何を意味するのか、その組織はなぜ巨大企業に対して格差是正を求めるテロを起こしているのか、なぜ大良の父は殺されなければならなかったのか、などと謎は深まるばかり。10月21日に1巻が発売され、モーニング2021年51号(11/18発売)から新章がスタートしたところですが、世界を舞台にしたスケール感のある物語もまだ始まったばかり。スリリングで、次々と巻き起こる出来事にぐいぐいと引き込まれていきます。

作者の朱戸(あかと)アオさんは、これまで山下智久さん主演でドラマ化された『インハンド』や、静岡のある街で突如として巻き起こった新型ペストのアウトブレイクを緻密に描いた『リウーを待ちながら』といった、医療サスペンス作品を発表してきました。『リウーを待ちながら』は、昨年のコロナ禍に「まるで予言のよう」と再び注目を集め、緊急重版されました。

この『ダーウィンクラブ』では、資本主義社会が進み貧富の差が広がった現代社会で、産業革命からわずか260年という人類の歴史からするとかなり短い期間に発展を遂げ、一方で格差を生み続ける現状に一石を投じています。タイトルに冠されている自然科学者・チャールズ・ダーウィンは、生物の生存競争で環境によりよく適応したものが子孫を多く残し、生物が進化する「自然選択説」を確立しました。作中の謎の組織は、テロという見えざる手でこの世界に介入し、行き過ぎた進化を淘汰しようとしているのか。いつ現実に起こってもおかしくない世界をリアルに描く本作は、新たな「予言の書」になりうるかもしれません。今はまだ謎だらけのパズルのピースが散らばった状態で、見えざる恐怖に押しつぶされそうになるのですが、その先に希望は見いだせるのか。今、リアルタイムで読むべき! と断言できるイチオシの作品です。

完全に余談ですが、個人的には、朱戸アオ先生の描く男性がすごく好みです。シュッとした涼し気な目に色気があり、グッときます。あと、本作では第1話の「犬も歩けば棒に当たる」にはじまるサブタイトルが、世界各国のことわざのようなのですが、こちらの意味も気になるところです。
 

 

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作者プロフィール
朱戸アオ(あかとあお)

2010年、アフタヌーン四季賞冬のコンテストにて、準入選を受賞。
「アフタヌーン」にて2013年『ネメシスの杖』 を、2016年『インハンド 紐倉博士とまじめな右腕』 を連載。その後「イブニング」で『リウーを待ちながら』 『インハンド』 を連載、医療サスペンスの新たな描き手として注目を集めた。『インハンド』はドラマ化した。

 

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『ダーウィンクラブ』
朱戸アオ 講談社

貧困。人種。環境。資源。教育……。格差が広がる世界で、次々狙われるGAFA的富裕企業。世界を動かす企業を襲うのは——?

世界を脅かすクライムサスペンス、開幕!