もっとも経営者側にも言い分があります。日本では現状維持を強く望む社員が多く、例えば新業態を開発する際にIT化が必須という状況になっても、ITスキルの獲得を嫌がる社員がたくさんいます。諸外国と比較して新しい業態へのシフトは簡単ではありません。
雇用制度上の問題もあります。日本は法制度上、企業側の都合で従業員を解雇できませんから、原則として終身雇用となっています。これまでの時代であれば60歳が定年でしたから、何とか社員数をコントロールできていましたが、最近ではそれが難しくなってきました。
政府は今年4月から、改正高齢者雇用安定法を施行しています。この法律の最大のポイントは、70歳までの就業機会確保が「努力義務」になったことです。以前は65歳まで雇用義務があるだけでしたが、これからは70歳まで継続して仕事ができるよう努力しなければならないという内容です。表現は「努力義務」にとどまっているものの、大手企業にとっては限りなく義務化に近いと考えてよいでしょう。
一昔前まで60歳だった定年が、事実上、70歳まで伸びてしまったわけですから、企業はより多くの人員を雇用する必要に迫られています。定年が延長されて社員数が増えても、収益が変わらなければ増加した人件費を負担できません。結局は、1人あたりの賃金を減らす方向に進んでしまいます。
諸外国と比較すると、日本企業は同じ金額を稼ぐために、米国企業やドイツ企業の1.5倍の人数を投入しており、すでに雇用が過剰です。ここに定年延長が加わりますから、現状のままでは賃金が上がる要因が見当たりません。
日本が抱えている低賃金の問題は、企業のビジネスモデルと雇用制度という2つの構造的要因が絡んでおり、一朝一夕に解決できるものではないことがお分かりいただけたと思います。
今後は日本でも、仕事に対して賃金を支払うという、いわゆるジョブ型雇用が普及すると言われていますが、それが定着するまでにはかなりの時間がかかるでしょう。おそらくですが、新しい雇用制度やビジネスモデルが確立し、それが賃金に反映されるよりも、物価上昇の影響の方が大きいと考えられます。
物価が上がり、給料も上がらないという場合には、副業などを行って世帯収入を増やすしか対処方法はありません。これからは副業についても真剣に検討する必要があると筆者は考えます。
前回記事「世界的なインフレが家計直撃...「賃金が上がらない」日本に迫る厳しい現実」はこちら>>
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