フリーアナウンサー馬場典子が気持ちが伝わる、きっともっと言葉が好きになる“言葉づかい”のヒントをお届けします。
「登ったらまず、『お邪魔しました』言うんよ」
今回は、こんな一言がきっかけとなった話です。
あの三輪そうめんで有名な地に鎮座する日本最古の神社、大神神社(おおみわじんじゃ)。
そのご神体は、奈良県桜井市の三輪山(みわやま)です。
かつては禁足地でしたが、今は申し込んで登拝料を納めれば、登ることができます。
何しろ山そのものがご神体なので、撮影や飲食は禁止。
靴で踏まないようにと裸足の方や、白装束の方、白い服装の方も見かけました。
登山ではなく、あくまで神聖な場所へのお詣り。
頭では分かっていて、穢すことのないように……という思いはありましたが、登拝直前、通りがかりに、なぜか私だけに掛けられた社務所の方の先の一言に、ハッとしました。
趣味の法螺貝で、以前師匠と山に入った時に、すでに調和のとれた世界に入って行くわけだから、お邪魔するわけだから、せめてそこに寄り添うように溶け込むように法螺を立てる、と教わったことがあります。
そんな心持ちで、ご神体に「お邪魔しました」と伝えるイメージをしてみたら、
普段の挨拶とのテンションの違いに我ながら驚きました。
社会人も長くなると、
お世話になっております。
お元気でしたか。
ご無沙汰しております。
お変わりありませんか。
と色々な言葉がスラスラ出てくるようになります。
それはそれでスマートな大人、なのでしょうけれど……
コトノハノコトの第1回では挨拶の大切さに触れてみたものの……
気づかないうちに、慣れや惰性になってはいないだろうか?
大阪芸術大学の授業での挨拶も気になってきました。
「おはようございます」のいつもの挨拶には、
みんな元気かな。
また会えて良かった。
今日もありがとう。
一緒に頑張っていこうね。
相手を思って、色んな気持ちを込めることができるのに、なんとなく流してはいないだろうか?
1人落ち葉を踏みしめながら、
鹿のものと思われるフンを避けながら、
鳥のさえずりや、小川のせせらぎに耳を傾けながら、
ふと足を止めて見上げたときの、杉の先端に縁取られた青空に目を細めながら、
そんなことをつらつら考えての登拝。
無事、山頂の奥津磐座に到着したとき、またもやハッとしました。
お賽銭を忘れた……(涙)。
実は同じ方から、
「携帯の電源も切った方が良いよ。山中で着信があったら、現実社会に引き戻されてしまうからね」
とのアドバイスも頂いていて、
すでに挨拶について考え始めてしまっていた私は、
「いっそのこと地図と水分だけで行こう!」
と全てロッカーに預けてしまっていたのです。
先に拝殿からご挨拶もしたし、
登拝の初穂料も納めているし、
きっと許してもらえるよね?
と胸の内で謝りながらの帰り道。
最後の結界を潜ると、そこにもお賽銭箱が。
お賽銭を忘れたお陰、とは言えませんが、磐座や道中だけでなく、下りてから改めて、「お邪魔しました」を感謝とともに伝えることができたのは、結果的に良かった気がします。
それにしても、考えごとをしていると何かしらやらかしてしまうところ、もう少し何とかならないものか……。
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