もしも自分が好きになった人が、大きな秘密を抱えていたとしたら? それが「殺人を犯した」という事実だったら? BE・LOVEで連載していた『私の正しいお兄ちゃん』(完結、全4巻)は、「ジェットコースター・クライムサスペンス&ラブ」というキャッチフレーズがついていますが、スリリングなだけでなく、人としての正しさとは何か? 幸せの追求とは何か? を考えさせられる奥深い作品です。

富山県出身で、今は三重県内の大学に通う木崎理世(りぜ)は、学業とスーパーのアルバイトに忙しい日々を送っています。アルバイト先で時々シフトが一緒になる内田海利(かいり)は、背が高くてイケメンで、人懐っこさもあるので、ちょっと気になる存在です。それは、幼い頃の両親の離婚によって、離れ離れになった兄と年齢が同じで、どことなく面影を感じさせられるからでした。

初めて愛した人は、殺人犯だった!『私の正しいお兄ちゃん』ドラマ原作を先読み_img1

 

幼い頃、両親が不仲な上に男性関係に奔放な母は留守がちで、兄だけが理世を守ってくれる存在でした。両親の離婚後、父親に引き取られた兄の消息がわからないままですが、大学を卒業し、就職して余裕ができたら兄を探しに行くということが、理世の唯一の心の支えとなっていました。

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ある日のこと、理世がバイトの休憩でベンチに座ってうとうとと眠っていたところ、目が覚めたら、理世の肩にもたれかかって眠る海利がいて驚きます。実は、海利は眠れないという悩みを抱えていて、布団で横になっても寝られなかったのに、理世がそばにいるとすっと眠れたのです。バイトが終わった後に「肩を貸してほしい」と頼まれ、理世はそれを受け入れることに。

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このことがきっかけで、二人の距離が少しだけ近くなります。バイト終わりに理世の横で寝るのが何回か続いた時のこと、ふと海利が口ずさんだCMソングが富山のスーパーマーケットのものだったことから、二人が同郷であることがわかります。普通なら大いに盛り上がりそうなところですが、なぜか暗い表情を見せる海利。一人で暮らすアパートに帰った海利は、追い詰められた表情で「油断してた」「理世ちゃんが富山出身なら知り合いがいるかもしれない」「誰にも気を許すな まだ2年も経ってないんだ」と口にします。

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ある日、理世はバイト終わりに海利が別の女性の肩にもたれかかって寝ている姿を目撃します。海利が安心して眠れるのは自分だけと思い込んでいたからだけでなく、理世自身も長らく忘れていた、一緒に寝ていた兄の温もりを思い出していただけに、大きなショックを受けます。海利からの連絡も途絶えてしまい、早く忘れようと思っていた理世でしたが、ある日、切羽詰まった表情の海利がバイト終わりの理世のもとに現れ、また肩を貸してほしいと請われます。理世は、一度は冷たく突き放したものの、すがるような海利を前にして、断り切ることができませんでした。

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理世はふらふらになった海利を支えて、バイト先の近くにある海利のアパートに向かいます。海利が布団の中で眠りに落ちた後、理世がふと部屋を見回すと、一冊の本を発見します。それは本ではなく海利の日記で、「あれから眠れたことがない」という一文が目に留まります。そこに記されていたのは、「人を殺した」という衝撃的な事実でした。

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眠れなくて苦しそうにしている以外はとても穏やかで優しく、人を殺しただなんてにわかには信じられない理世。思い出の中の大切な兄と重ね合わせていただけに、さまざまな感情に押しつぶされそうになります。さらには、海利に惹かれている自分もいて、複雑な思いを抱えることになります。

 

物語はこの先、理世と海利の関係性や海利が殺人を犯した理由、行方知れずの理世の兄の行方など、さまざまな要素が複雑に絡み合って進んでいきます。ページをめくるごとに「えー、そうなの!?」「そうきたか……」と振り回されっぱなし。人として正しくあるとはどういうことなのか、過去に過ちを犯した人は一生辛い思いを抱えて生きていくしかないのか、好きという気持ちと理性の間に生じる葛藤をどう乗り越えていくのか、など、単行本4巻を一気に読ませます。

試し読みの2話分だけでもまさにジェットコースターのような展開で、1巻の最後には、ものすごい事実も明らかにになります(言いたいけど言えない……)。連載完結後にはドラマ化が決定し、動画配信サービスFODでドラマ「私の正しいお兄ちゃん」が配信中。さらには視聴者からの反響が大きかったことから2022年1月10日から地上波のフジテレビでも放送が決定! 最後の最後に「私の正しいお兄ちゃん」というタイトルに込められた意味を改めて知ることになるので、ぜひ一気読みしてほしい作品です。

 
 

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『私の正しいお兄ちゃん』
モリエサトシ 講談社

大学生の理世はアルバイト先のスーパーで働く海利と出会う。眠れない海利に肩を貸すうち、幼いころ別れた兄の思い出を重ね好意を抱くように。 しかし、海利のアパートで彼が人を殺したという日記を見てしまい衝撃を受ける。好きになった人の正体は一体? 次々と明らかになる真実と海利への愛が理世を追いつめる! モリエサトシが贈るジェットコースター・クライムサスペンス&ラブ!!


作者プロフィール

モリエサトシ(もりえさとし)
代表作『親愛なるA嬢へのミステリー』(全3巻、講談社刊)など多数。