昔、夫に浮気されたことが忘れられず、時限爆弾のようにずっと心の中に残っている妻。爆発するきっかけは18歳年下の男の子との出逢いだった。
山口紗弥加さん主演で、この1月からドラマ化された『シジュウカラ』。40歳の漫画家であり主婦の女性が22歳の男の子と恋に落ちそうになるギリギリ感と、二人の過去が絡み合う様に心がざわめく作品です。

『シジュウカラ』(1) (ジュールコミックス)

綿貫忍(旧姓 佐々木)は、漫画家としてデビューして20年、アシスタント歴も同じく20年。自身で漫画を描いていた時期もありましたが、鳴かず飛ばずで、もう自分の漫画は描かずに売れっ子漫画家のアシスタントをしています。

 

知り合いの漫画家がSNSで原画展の告知をして盛り上がっているのに、自分はフォロワー数100人ちょっとでもはや一般人のよう。単なる「読者」に戻ればこのざわつく気持ちもなくなるのでは、と思うのでした。

忍は家に帰れば夫と一人息子のいる主婦。夫の父親が亡くなったのをきっかけに、中野から夫の実家へ引っ越すことになりました。

息子は引っ越すのが嫌らしく、ため息をついて言います。

あーあ お母さんがもっと売れてたら吉祥寺の豪邸に住めてたかもしれないのに……

ひとまわり上の夫とは、漫画家デビュー時に出逢った。
夜、夫に求められるとうんざりするのは、年齢のせいだけじゃありませんでした。

 

夫は、息子が生まれたばかりの頃、浮気していました。
当時を思い出すと忍はどうしても「その気」になれないのでした。

結婚後、漫画家としてうだつが上がらず、ネームを描いても描いても通らない日々。慣れない家事に加え、子どもを産んだらますます漫画が描けなくなって疲れ切っていた忍に、夫は無関心でした。

 

「仕事? 女でしょ」そう問い詰めたい。

現実ではたくさんのみ込んできた言葉を、紙の上に漫画にして描いていった忍。

 

その後、忍は、子どもが小さいのに夫に浮気されている専業主婦が主人公のネームを描き上げ、作品は連載となり、はじめての単行本「地獄にホットケーキ」を出せたのでした。

でも、単行本を出せたのはそれっきり。今では他の漫画家のアシスタントです。

夫の実家に引っ越したのを機に、漫画を描くのを辞めようと決めた忍の元に、編集者から連絡が来ます。

「地獄にホットケーキ」が、今になって電子書籍で大ヒットしている、と。

 

なんでこんなベタなレディコミが、と驚く忍に、編集者は、電子コミックサイトのユーザー層(女性がほとんど)との相性が良いのだと言いました。
今度は「妻が不倫する」というテーマで描いてみませんか? と新作描き下ろしの話を持ちかけられ、忍は漫画家としてもう一度やってみようと決め、アシスタントを募集することにします。

でも、応募してきたのは2人だけ。本当は女性がよかったのですが、「近所に住んでいて交通費がかからない」という理由で22歳の男性を面接します。

それが橘千秋という男の子でした。

 

若い漫画家志望の男の子=ひねくれたイメージを持っていた忍は、人当たりが良く、普通にモテそうな美青年の千秋にちょっと驚きます。

この日、忍は40歳になっていました。

「今どきの若いコの距離感ってこんな?」パソコンでソフトの使い方を教えてくれる時の距離が近いし、忙しい時には夕飯を代わりに作ってくれたりと、年上で主婦の忍にやたら近づいてくる千秋。

「ずっとここに住んでたんですか」「結婚して長いんですか」仕事中に、家や夫との出会いについて聞かれ、自分の実家が近いこと、夫と知り合ったのがすぐ近くの居酒屋だと話すと、千秋は意味深なことを言います。

じゃあ 僕たちも
もっと前に どこかで会ったことあるのかもしれませんね

 

帰り際には、今の作品で「夫に不満を持ち、不倫に走る人妻」を描いていることを、「あれって先生がモデル?」「願望?」と思わせぶりに聞いてきます。

 

勘違いしてしまいそう。と、頬を赤らめる忍。

でも、どうしてこんなに接近してくるんだろう。
夫も、「おばさん」のわけわからん漫画の手伝いをして、夕飯まで作ってくれる青年を訝しんでいる様子。

アシスタントに来てくれたおかげで、原稿を仕上げることができた忍は、仕事が終わったら打ち上げをしようと千秋に言う。すると、「ダンナさんと知り合った近所の居酒屋に行きたい」と答えるのでした。

どういうつもりで接しているのか、相変わらずわからないまま、2人で打ち上げに行くと、帰り道で酔った千秋がしなだれかかってきます。

 

もし 私が 今
彼と同じ22才だったなら

このまま雰囲気に流されていただろうけれど、40歳になった忍は冷静さを忘れませんでした。

その後、千秋がパソコンを持ってないふりをしてまで、忍のアシスタントとして通おうとしていたのが判明します。
女心を揺さぶる言動ばかりする彼は忍に近づき、何を企んでいるのか。

実は、千秋と忍は、意外なところでつながっていたのです。夫の過去の浮気が、二人の心にそれぞれ大きく影を落としていました。

忍は、一番助けてほしかった出産後の時期に、夫が自分を裏切っていたことに傷ついていました。
そして、千秋はまた別の傷つく体験をしていました。それが読み手の予想を超えてくる辛くて壮絶なものなのです。

彼の「企み」がわかった後も、忍は少しずつ彼に惹かれていくのですが、彼の過去にどう向き合っていくのか?
「18歳の歳の差恋愛」と言い切るには複雑な二人の関係を、是非ドラマと見比べてみてください。

 


【漫画】『シジュウカラ』第1話を試し読み!
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『シジュウカラ』
坂井 恵理 (著)

家族で夫の実家に引っ越してきた綿貫忍・39歳。売れない漫画家である忍は、引っ越しを機に筆を折ろうと決意していた。ところが、過去の作品が電子書籍でヒットしていると編集者から聞かされ、「これが最後」だと決意し新作を描くことにする。アシスタントを募集し、応募してきたのは22歳の美しい男の子・橘千秋だった。


作者プロフィール

坂井 恵理
漫画家。『ヒヤマケンタロウの妊娠』『ひだまり保育園 おとな組』(第22回文化庁メディア芸術祭・審査委員会推薦作品)『シジュウカラ』(第23回文化庁メディア芸術祭・審査委員会推薦作品)などが代表作。現在は「JOUR」(双葉社)で『シジュウカラ』を連載中「BE・LOVE」(双葉社)で『ヒヤマケンタロウの妊娠 育児編』をそれぞれ連載中。『シジュウカラ』は、2022年1月より山口紗弥加さん主演でテレビ東京系でドラマ放送開始、『ヒヤマケンタロウの妊娠』は、2022年春にNetflixでドラマ化され独占配信予定となっている。
Twitterアカウント:@erisakai



構成/大槻由実子