隠れた現代病の一つ、「成長教」を知っていますか? それは体の病ではなく、心に巣食う病で、社会人なら誰しもかかる可能性があります。と、勝手に言い切ってしまいましたが、その症状を知ると、心当たりのある人も多いはず。これはわたしや、隣の誰かの話だ、と。
『夫は成長教に入信している』は、「成長教」にハマってしまった夫と、どんどん"信仰"がエスカレートしていく夫を見守り、”脱会”させようと奮闘する妻の記録です。

同期の中で誰よりも早く昇進することを目指し、「成長」しようとしている夫。
今日も、鏡の中の自分に「俺ならできる 俺ならで・き・る!」と呼びかけるメンタルトレーニングをしています。

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それを陰から見て、軽く引いている妻。

また夫は成長しようとしている—

 

夫の仕事への思いは情熱や責任感を超えた「何か」にとらわれていました。
「成長すること」に異様にこだわる「成長教」。
昨日よりも成長するためなら、何でもやろうとするのです。

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夫が"入信"してしまった「成長教」とはどんなものなのか? 彼のいくつかの言動からわかります。

彼が意識するものの一つは「コスパ」。
決断で消耗したくない。まるでスティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着ていたように。ジョブズが服なら、夫は食事を決断しないことにしたのです。
「粉ミルクが最高の食事」と言い切る彼の話を聞いてみると、

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おにぎり・野菜ジュース・サラダチキンの三点セットを日々食べているらしい。

成長教の特徴 その1:
食事すらも、作業化する。

さらに、夫は言う。
「生活すべての生産性を上げたい」。
隙間時間を、テトリスのブロックを埋めるように減らしていきたいのだと言います。
そのために彼がはじめたのがオンラインサロン。

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隙間時間を減らすことありきで、どうしてもこのオンラインサロンに入りたい! が第一の目的ではないところが危うい感じがします。

現に、夫は寝る間も惜しんで予定を詰め込み、ついに風邪をひいてしまいます。

成長教の特徴 その2:
隙間時間を減らして、とにかく生活の生産性を上げたい

その後、「成長」し続けていった夫は、見事に昇進。昇進パーティでは上司から期待の声をもらい、社会的に成功と呼べる状態になりました。

この成功体験が、彼の"信仰心"をさらに高めることとなったのです。

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ますます仕事にのめり込み、休日、妻がショッピングに誘っても断り「どこか行きたいとこないの?」と聞くと、「会社⋯⋯かな」と答える夫。その返答に、思わずよろめく妻。

夫は 
すでに根が張ってしまい
どこにも行けなくなっていた

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「仕事」という鉢から出ようとしない夫。無理に抜いてしまえば枯れてしまう⋯⋯。

成長教の特徴 その3:
休日も、鉢(会社や仕事)から抜け出せない


そして、昇進すれば環境も変化する。

20代の部下を持つようになった夫がリモートワーク中、悩んでいる。部下に業務を依頼したチャットの返信がなかなか来ないのです。
やっと夜に返事が来て、ため息をつき、「最近の若者あるある」をつぶやく彼。

最近の若者は 否定をスルーで返すんだよなあ
「できません」とは言わない

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カイワレみたいに世話している分だけ育つと良いのに。
上から目線でぼやく夫に、妻が強烈なジャブを一撃!

まだハイハイもできない子に学ばせたって土から水があふれ出ちゃうのよ?
もっと相手の成長を見ながら育ててあげないといけないんじゃないの?

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成長教の特徴 その4:
相手も自分と同じスピードで成長できると思い込んでしまう

妻との旅行も、自らの成長につなげようと必死になる夫。
でも物事は、ずっと右肩上がりではいられない。

2日徹夜して作った提案書を上司に「ゴミみたい」と言われたことから、彼が根を張っている「鉢」にヒビが入りはじめます。

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夫はどうなってしまうのか?


彼の「鉢」とは、会社や仕事における他者からの評価でした。上司や部下から認められることで、夫はびっしりと根を張り、安心できたのです。

俺は自分の価値を世の中に証明したい。

後半、体調を崩した夫はそう必死に訴えます。
彼は、幼い頃から親に言われ続けた言葉に心を囚われていました。それは、

失敗しそうなことはするな、親が敷いたレールをはみ出さず、「普通」でいなさい。

というもの。

親の言葉通りの大人になりたくなくて、敷かれたレールをはみ出したくて、彼は「成長教」にはまっていったのです。

でも、夫の心や体が真に望んでいたものはまったく別のところにありました。妻も、「成長」に必死な夫を冷ややかな目で見るのをやめ、彼を「成長教」から自分との生活に引き戻そうとします。
最後、夫婦が向き合った時、夫という植物がようやく、あるべきところに植え直された⋯⋯と、ほっとしました。

社会的成功と、個人の幸せはイコールとは限らないのに、時に混ざって見えてしまうもの。昇進とは、「成長」できるチャンスなのか、心身のバランスを崩す落とし穴なのか。
どっちもありうるのを忘れてはならない、と思いました。

「昨日より少しでも成長していたい」とやる気を出したり、空いた時間は有効活用! と予定を詰め込んでみたり、「最近の若者あるある」をつぶやいてみるのって、自分がちょっとすごい人間になれた気がして気持ちがいい。ああ、身に覚えがありすぎる! 自分は入信していない、とは言い切れません。
昔よりちょっとでも良い感じの自分になっていたい、とチャレンジしてみる向上心と、「成長教」に入信するのは紙一重。知らないうちに、あなたも「成長教」に入信していませんか?

 


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『夫は成長教に入信している』
紀野 しずく (原著) 北見 雨氷 (著)

仕事で「成長」するために、余暇の時間や健康を顧みない夫。彼は「成長教」に入信していた。他者の評価に怯え、走り続ける現代人へ贈る、心の救済の物語。

 


作者プロフィール

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原作者 紀野しずく

『夫は成長教に入信している』を漫画投稿サイト「DAYS NEO」で連載し、単行本化。noteでもエッセイや漫画を描いている。
Twitterアカウント:@kino12kino3

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作画者 北見雨氷
 

『夫は成長教に入信している』の作画を担当。漫画とか絵とか描く人。小・中・高・特別支援の教員免許持ってます。現在、幼稚園免許取得中。
Twitterアカウント:@rain_and_frozen



構成/大槻由実子