兄弟姉妹で「上の子はまじめで責任感が強い」「下の子は甘え上手でちゃっかりしている」なんて言われたり、感じたりしたことはないでしょうか?
姉妹が互いに抱く感情を、端的に表現したタイトルが目を惹く『けむたい姉とずるい妹』。「Kiss」で連載開始されると、性格が正反対の姉妹と、二人が絶縁したきっかけとなる男性が繰り広げる三角関係のストーリーが話題に。2月10日に1巻が発売されました。

母親の葬儀で、8年ぶりに再会した姉妹2人。
喪主を務めた姉・じゅんと、大遅刻してきたにもかかわらず謝る前に棺の前で大泣きする妹・らん。

私の人生を狂わせた たったひとりの妹

 

じゅんは独身、らんは既婚ですが、彼女の夫は葬儀に来ていませんでした。

「喪主だからって我慢することないよっ 泣いてもいいんだからねっ」と伯母に言われ、「でも、ずっとお見舞いも通院も着いていっていたし、ある程度は覚悟していたから」と答えるじゅんだが、伯母が去るとため息をつく。
すると、らんが声をかけてきました。

 

おねーちゃん ちっとも変わってないねえ

 

母がすでに亡くなった父と住んでいたこの家に、これからは一人で住む、と言ったじゅんに、「今はもうたった一人の家族なんだから」と、らんと仲直りすることをすすめてくる伯母。じゅんは思う。

なんにも知らないくせに

この人に あの女に奪われたもの
ひとつひとつ挙げていったら
一体 どんな顔をするだろうか

じゅんは、昔、らんに新品のカーディガンを勝手に着ていかれた日のことを思い出します。

 

「かわいいから借りちゃった」とまったく悪びれず、脱いでそのままカーディガンを返すらん。

ダイヤのピアス べっ甲の髪留め
カシミヤのマフラー すみれ色のカーディガン

気づいたら ぜんぶ あの女のものになっていた

そして、返されたカーディガンを体に当てて鏡に映しながら、じゅんは思ったのです。

そしてそれらが
私よりもずっとずっと似合うのだった

 

葬儀後に夫を連れてきて、無邪気に宣言するらん。

あたしたち この家に住もうと思って

 

じゅんは「そんなのありえない」と反対しますが、らんは、自分も母のお見舞いに行っていたし、気を遣っていたつもりだった、そして、もう家の解約手続きをしちゃったし、私たちはここに住むことに決めた、と一方的に言います。

すると、らんの夫・律がじゅんに謝ります。彼が続けて言った言葉に、思わず頬を赤らめるじゅん。

おれ らんちゃんもじゅんちゃんも 好きだし

 

何もかも あの女に奪われた
アクセサリーも 洋服も

大好きだった人も

律は、じゅんの元カレだったのです。
これが、8年絶縁していた理由でした。

やっぱあたしここに住む

もう、家まで奪われたくない。そう思ったじゅんは、らんと律の夫婦と同居することに決めます。

こうして、ひとつ屋根の下で、
・元カレを妹に奪われたじゅん
・姉のカレシを奪って結婚したらん
・姉の元カレで、妹の夫である律
のドロドロ三角関係がはじまるのでした。

喜怒哀楽が激しい妹・らんに対し、感情をあまり表に見せない姉・じゅん。
この姉妹バトル、どちらが優勢なのかと言うと、迷うところなのです。

姉目線では「何もかもあの女に奪われた」と言い、身勝手な妹に見えますが、妹は妹で、彼女なりの言い分もあるのです。

おねーちゃんって いっつもそう
自分だけつらい 自分だけ頑張りました
なんて顔しちゃってさ

 

男を奪った側だから余裕、というわけでもなさそうで、三人の同居生活でも、律に甘えたり、泣いたりして、いつも自分の方を向かせておくらん。あざとい⋯⋯。

でも、必死に、律の心をつなぎとめておこうとしているように見えてくるのです。

やだっ!
あたしのこと嫌いになったの!?
もう いらないの?

 

らんが泣きながら律に叫んだ「もしかしてあのこと根に持ってるの!?」という言葉が気になります。

そして、姉妹が絶縁した元凶である律が、魔性キャラなのが、これまたやっかい。

じゅんは喫煙者なのですが、らん夫婦と同居してからは、らんに嫌がられて、家の中ではタバコを吸わなくなります。
「りっくんはあたしがやめてって言ったらやめてくれたもん」

実は、律も喫煙者。
タバコの煙がきっかけで、学生時代のじゅんと律は恋人同士になったのでした。でもそれも昔。

らんちゃんには 内緒ね

妻のらんには秘密で、こっそりと庭でタバコを吸う律をじゅんが見つけ、一緒にタバコを吸うシーンは、エロティックな雰囲気がただよいます。

 

いい感じに見えるじゅんと律。今にも一線を超えてしまいそうです⋯⋯。

二人が別れ、らんと律がどうやって結婚に至ったのかは、らんが叫んだ「あのこと」と繋がっているのかも?

妹は姉を「けむたい」と、姉は妹を「ずるい」と思っているのですが、どちらも「あの子は私の持ってないものを持っている」と感じています。たとえば、じゅんなら、らんのカーディガンが似合うところに、嫉妬し、うらやましいと感じています。
その「持っていないもの」は、相手からすると、え、そんなところ? と驚くくらい、互いに予想できない部分だったりするんですよね。
姉妹がいる人なら、特にこの感情がわかるはずです。

また、読んでいて思い出したのが「アナ雪」こと、『アナと雪の女王』。姉妹愛がテーマの一つだったあの映画の公開当初、観た女性たちの間で意見が割れていたことを知っていますか?
自分自身が姉だと、エルサにシンパシーを覚えアナが苦手だと感じた一方、自身が妹だとアナはいい子だと感じ、エルサにイライラした、というものです。

まさに、姉にけむたさを感じる妹と、妹にずるさを感じる姉、の構図でした。

エルサとアナは、一人の男性をめぐって争うことはなかったのであのような結末になりましたが、じゅんとらんはどうなってしまうのでしょうか? 奪われ奪う二人の間に「姉妹愛」は生まれるのか、が気になるところです。

 


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『けむたい姉とずるい妹』
ばったん (著)

じゅんとらん、二人の姉妹は母親の葬儀で8年ぶりに再会を果たす。二人が絶縁した理由は、一人の男・律をめぐってだった。かつて律はじゅんの彼氏だったが、今はらんの夫になっている。三人がひとつ屋根の下で暮らしはじめ、泥沼の三角関係がはじまる!
 


作者プロフィール

ばったん
女同士の恋愛を描く『にじいろコンプレックス』『かけおちガール』(講談社)『姉の友人』(リイド社)などが代表作。現在は『けむたい姉とずるい妹』を「Kiss」(講談社)で連載中。
Twitterアカウント:@battan8
Instagramアカウント:@battan8

 



©️ばったん/講談社
構成/大槻由実子